THANK YOU!!-4
いつもとは全く違ったお昼休みを終え、放課後になった。
保健室で描いた絵に色を付けるために美術室に向かう秋乃に、お昼ご飯を一緒に食べたクラスメイトから「バイバーイ」や「また明日!」などという言葉を投げかけられるいつもと違った光景に、秋乃はまたも照れくさくなった。
「(・・世界って、こんなに簡単に開けるんだ・・)」
思わぬ収穫に頬を緩めながら、秋乃は美術室の扉を開けた。
中には誰も居ない。
美術部員はそんなに多くない。
コンクールに出すだけしか活動が無いので、わざわざコンクールが近づいていない春に美術室を訪れる部員は少ないのだ。
「まぁ・・落ち着けるから良いんだけど・・・」
そうつぶやいて、秋乃はもはや定位置となっている一番後ろの窓際の席に着いた。
床に下ろしたバッグから青いファイルを取り出した。
中から大事そうに下書きが済んでいる画用紙を机の上にそっと置いてから、またもバッグから愛用の色鉛筆、ペンケースも取り出して机の上に置く。
「ん、よし。」
窓を少し開け、心地よい風を絵の具臭い美術室に流す。
朝感じた風とは少し違った暖かい風が、絵に色をつけ始めた秋乃の髪を揺らす。
時間も忘れ、秋乃はその作業に没頭した・・。
*****
《ガラッ》
「・・秋乃ちゃん、居るのか?」
サッカー部の練習を終えた雅弥が、ジャージ姿で夕焼けで照らされた美術室の扉を開けた。中に、秋乃が居るだろうという確信を持って。
保健室で約束した絵を、見せてもらいに。初めて、秋乃から告げてくれた約束。
今まで、何でもかんでも秋乃に話しかけたりする自分は嫌われているんだろうと思っていた。なぜだか分からないけど、それが悲しかった。でもそんな思いをしてまでどうして秋乃に構うのだろうか。
全く分からなかった。
だけど授業をサボる為に屋上を訪れた雅弥の目に飛び込んだのは、ケータイを片手に気を失った秋乃の姿だった。
心臓が止まりそうになるくらい、頭が真っ白になるくらい、自分の中で何かが崩壊した気がした。
そのあと、秋乃が目を覚まして、心から安堵した。緊張が、解けた。
秋乃が何かあって目を覚まさなかったら、怖かった。
秋乃が掴んだ手の温かさに、自覚をした。
自分が、秋乃に対してどういう気持ちを抱いているのか・・・。
「秋乃ちゃん?」
名前を呼ぶ度に、緊張する。そんな今までに無い感覚を感じながら、秋乃が居る定位置の席に近づいた。
「・・・!!」
雅弥が、机の横に来たときに秋乃の顔が見えた。寝顔。
その可愛げな寝顔に見とれていると、机の上に一枚の絵が置かれていた。
そっと秋乃を起こさないようにそれを抜き取る。
絵を手に取って、見て、雅弥は笑顔を浮かべた。そして、机に座って秋乃が起きるまで寝顔を見つめた
手に持っている絵は、オレンジが基本色とされていて、中央にウサギと小鳥に強く背中を押された猫が犬に飛び込んでいる様子が描かれていた・・。