THANK YOU!!-2
「・・・っ！！」
強い呼び声で目を覚ました秋乃の目の前に写ったのは少し黄ばんだ白い天井。
最後に見た景色、夢の中で見た景色を全く違う場所に戸惑いを覚えた。
「・・（ウチ・・なんで・・）」
「良かった、秋乃ちゃん。」
ふと、聞こえた声に顔を横に向けると思いがけない人物が座っていた。
その人は、今自分が横になっているベッドに腕を置いてじっと秋乃を見つめていた。
不安そうな顔をしていたのに、自分が顔を向けた瞬間凄く安心したような顔をして。
覗き込まれたその瞳に、秋乃は恥ずかしさを覚えた。
そして、口を動かした。
「・・あ、さし、の・・せんぱ、い・・」
「わ、喉カラカラじゃん。ちょっと待ってて、水貰ってくるから」
そう言って、椅子から立ち上がった雅弥を、秋乃の小さい手が止めた。
「・・ま、って・・、」
「あ、あきの、ちゃん・・？」
自分を呼ぶ声が、驚いているのが聴いて分かる。
勿論、自分だって何でこんな事をしているのかが分からない。嫌っていたはずなのに。
でも・・
「・・紙、と・・シャーペン・・貸して、ください・・」
「え？い、良いけど・・どうするの？」
「・・・絵を、描きます・・」
ゆっくりと起き上がって、掴んだ手はそのままに。
秋乃は初めて、真正面で、雅弥の顔を見て、微笑んで言った。
「とても懐かしい、夢を見たから・・。完成は、部活中になるけど・・描きたいので・・。」
「・・秋乃ちゃんの夢？」
「・・・・もし、先輩が、見たいって言うなら・・見ますか・・？」
「・・っ！！」
秋乃から告げられた提案に、雅弥は物凄く驚いた。
今まで、秋乃から提案どころかまともに会話を持ちかけられたことが無い。いつも、秋乃は受身だった。
爆発しそうな程の嬉しさを感じて、雅弥が何度も激しく頷いた。
「見たい！！見る！！」
「・・・うん・・」
喜んでくれた雅弥を見た秋乃は断られなかった事に胸をなで下ろした。
そして、掴んでいた雅弥の手を離した。
雅弥が意気揚々とカーテンの外に出たのを見て、秋乃は手で頭を抱えた。
「（・・・なんで、あんなこと言ったのかな・・・）」
明らかに、夢の中で言われた言葉に感化されている。
“先輩を受け入れる”・・それが、こういうことなのか。確かにただ自分が勝手に拒絶をしていただけかもしれない。
女子からの呼び出しが次第に増えていったという事実があったから。
よく考えてみれば、最初は受身だったにしても会話してた。結構楽しかった覚えがある。
でも、女子から呼び出しをされ、暴力を振るわれる度に、自分がこんな目に遭うのは雅弥のせいだと擦り付けていた。だから、雅弥を拒絶することで、自分を保たせる糧にしたかった。
でも、夢で瑞稀と拓斗に会えたこと。二人から言われた言葉。
いつまでも、瑞稀と拓斗の居た学校生活と比べてたらダメなんだ。
二人だって違う学校で頑張っているんだろうから。
二人しか自分の傍に居てはいけないという境界線が、今のこの状況を作り出してしまったのなら。
少しずつ、変えていかなきゃならない。自分は、あと３年はこの学校に通うのだから。
「（・・ま、とりあえず、鈴乃に言われた通りに言いたいことを言うかな）」
・・・凄く癪だけど。
小さく呟いたその言葉は、ノートとペンケース、水の入ったコップを持ってきた雅弥のカーテンを引く音にかき消された。