縄灯(後編)-11
―――
エピローグ…
ふと目が覚めると窓の外が仄かに明るくなっていた。カーテンを開けると私のマンションの
外には、立ち並ぶビルの谷間と空の境に薄紫色の黎明の光が、水彩絵具を溶かしたように
滲み始めているのが見える。
テーブルの上のグラスには、飲みかけの白ワインが残っていた。昨夜はいつものように投稿
小説を書きながら少しだけ口にしたお酒の酔いがまわってしまったようだ。少し酔った私は
そのままソファで寝込んでしまっていた。
長く息苦しい夢だった…。まさか自分が首を吊って死ぬ夢を見るなんて…。
その夢があの記事によるものであることは確かだった…。私は昨日の週刊誌に記載された
小さな記事を思い出す。
記事は、都心から少し離れた林の中で、四十歳くらいの女性が全裸で首を吊って死んでいる
のが発見されたことを伝えていた。その女性は、後ろ手に手錠をかけられていたことから、
警察は自殺と事件の両方から捜査をしているということだった。
ただ警察が注目しているのは、二十数年前にこの敷地に建っていた古い屋敷で焼死した男女
の事件について、火元の不審火が彼女の放火であることが彼女の手帳に綴られていたことだ
った。そして、週刊誌はその女性の実名を書き加えていた…。
女性の名前は…「谷 舞子」… 私と同姓同名だった…。
マンションの外の黎明に包まれた空が、刻々と彩りを変え輝きを強めていく。
色濃くなるその光の中で、全裸で首を吊った彼女のゆがんだ顔と私自身の顔が交錯し脳裏を
よぎっていく。
私は書きかけの投稿小説「縄灯」の最後のフレーズをパソコンの画面に綴った。
「…肉にまで喰い入った仮面… その肉づきの仮面だけが告白することができる。告白の
本質は不可能だということだ…」(ある著名な作家Mの言葉より)