縄灯（後編）-10
私は自分の陰毛を掌で淡く包み込みながら指で掻き分ける。湿った陰毛が指先にしっとりと
絡んででくる。中指を少しずつ秘裂へ向けてなで下ろすと、蜜液が淫唇の溝を濡らしぬめっ
ていた。やがて封印される肉洞の入り口から、私のなかに潜む鬼気が漂ってくる…。
首をくくった私は、あの樹木の枝からぶらりと垂れ下がるのだ。狂い悶えながら艶めかしく
死に至る裸体は私ではなく、私のなかに潜む鬼…。鬼の化身となった私の淫窟は、やがて
蜜汁の匂いをかぎつけた猿の性器で犯され、群がる鴉に啄まれる…。
…縄で縛られ、責められる女は、自分の中の鬼を見ることができる…でも、鬼が行きつく果
ては、見ない方がいいものだ…キジマのあのときの言葉が、私の中で今もまだ冴え冴えと浮
かんでくる。
私は紙袋から冷たい金属の手錠を取り出す。そして鈍色の光沢を放つ手錠を私は片方の手首
だけに嵌めておく。無機質の冷たさが手首の皮膚からからだの芯に伝わってくる。
私はゆっくりと木箱に踏みあがる。ぶらりと目の前に垂れ下がった縄輪に頬を寄せると、母
とキジマの懐かしい匂いが鼻腔に滲み入るようだった。縄で描かれたいびつな丸い円の向こ
う側の黒々とした闇のなかに、もうひとりの私が待っているような気がした。
黒い縄の輪をゆっくりと首にかける…。
ざらりとした縄の懐かしい感触が私の咽喉元を撫であげる。縄輪を少し縮めながら咽喉元を
ゆっくりと絞める。そして手錠を嵌めた片手首を後ろ手に背中にまわすと、もう片方の手首
を手錠の輪にすり抜けさせる。そして手首をねじりながら、もがくように指をひねると手錠
の輪を閉じた…。
ガチャリと鈍い音がした。
準備は整った…。後ろ手に両手首を手錠で自ら拘束した私は、もう首にかけた縄を外すこと
も、この木箱の上から逃れることもできなかった
残されたことは、足元の踏み台を自分の足で強く蹴ることだけだった…。
この踏み台を蹴った瞬間に私は息苦しさで溺れかけたように必死にもがくのだろうか…いや、
それは私ではなく私の中の鬼がのたうつのだ…。ただ私はその鬼が死にいたる瞬間を嘲笑う
だけでいいのだ。
私は静かに瞼を閉じた…。
そして… だれかに背中を押されるようにすっと足元の木箱を蹴った…。
縄で咽喉元がぎゅっと絞まり、からだが濃い闇のなかにふっと解き放たれたように浮いた…。