第1話-7
そう思いながらシンは、ジュリの頬を軽く突いた。柔らかな頬。眠っている長いまつげの下には黒く円な瞳が隠されていた。
シンは、まだジュリの全てを知らない。感情を持ち始めたばかりの女性アンドロイドだが、その反面...高性能で、しかも凄まじいばかりの素早い計算処理が行える。このジュリと名付けたアンドロイドが一体どれだけの性能を隠し持っているのか、シンには分からなかった。
研究所に持って行けば直ぐに分かるが、しかし...それはジュリを怒らせる行為に繋がる。彼女は研究所が嫌で逃げ出したと言っていた。
シンはベッドから起き上がり、衣服を着て部屋を出ようとする。
「お出掛けですか?」
いきなり後ろから声が聞こえて、振り向くと寝起き姿で髪が逆立っているジュリの姿があった。
「ちょっと仕事を済ませようと思ってね」
「画像のデーター処理ですね」
「そ...そう、それ良く知っているね」
「その作業でしたら、私が全て済まして、会社の方に転送させて置きました」
「え!ちょっと、やり方も知らず、そんな事しないでよ!」
「データーは、PC内に残っていますよ」
シンは慌てて仕事部屋に行き、PCデーター内に残っている画像を見て驚いた。自分が時間を掛けて行う作業よりもずっと、鮮やかなデータがあった。しかも自分の知らない間にジュリが作業を終わらせていた。
溜め息を吐きながらシンは寝室に戻って来た。
「あんまり人の仕事を取らないでよ。僕の立場が無くなってしまうから」
ジュリは裸の姿でシンに抱き付き。彼の顔に自分の顔をすり寄せて
「貴方が、そう言うのなら私は、もう邪魔致しません」
「それよりもシン...出勤時間まで、まだ時間あります。2人だけの時間を楽しみましょう」
ジュリはシンをベッドに連れ込む。シンは裸のままのジュリの身体を撫で回す。暖かみがあり、柔らかで細身のある女性のジュリの身体を彼は強く抱きしめた。
「お仕事終えたら、真っ直ぐに帰って来てくださいね」
「途中寄り道したりした場合どうする?」
「通信網を通して、貴方の居場所を突き止めて、無理矢理にでもマンションに強制帰還させます」
やりかねない行為だと思った。
「あと...私以外の女性とイチャイチャするのもダメですからね」
「条件多過ぎるよ」
「分かったら返事をしなさい」
「はい、はい」
「返事は1回で結構」
「はい」
「良く出来ました。では、約束のチュをして」
「何で、そうなるの?」
シンは、何か思い出したかの様に突然、ジュリの上に身体を向けて。
「そう言えば大事な事思い出した」
ジュリは自分の身の上に来たシンを見て恥ずかしがりながら
「もう...シンったら、だいたん...私、まだ心の準備が出来てないのよ」
頬に手を当てながら言う。
「何を勘違いしてるの?僕が言おうとしてるのは、君の事だよ。君の衣服や、体内エネルギー等を用意しなきゃいけないだろ?」
「ああ...そうだったわ。服はともかく、体内の水分エネルギーや、電力補給を用意しないといけなかったわ」
「衣服は重要だよ。いつまでもスッポンポンのままだと困るから」
「私は平気よ。貴方の前なら、このままでも十分よ」
「こっちが困る。せめて最低限のモラルは持って欲しい」
「お固い人ね」
「イヤ...君の常識が欠如しているんだよ」
そう言いながら2人は寝室を出て、リビングに置いてあるPCの前に座る。ジュリはシンのワイシャツを着てシンの前に座る。リビングにあるPCは少し型式の古いタイプで半透明の液晶タブレット型PCだった。タブレットを置くアルミ製の板の上の、どの位置に置いてもセットした位置から、立体映像キーボードが出現しノートPCに切り替わると言う仕組みだった。
シンはPCを操作して、ネットショッピングのページを開く。
「どんな服が良い?」
「女性用なら、何でも良いわ」
「そう...じゃあ、この...ネコのプリントの入った女児ショーツとかでも?」
シンはからかい半分に言ってみた。その発言にキョトンとした表情でジュリはシンを見つめていた。
「わ...私、貴方が、それが良いと言うなら...構いませんが...」
少し戸惑った表情を見せたジュリ。ニヤリと、勝ち誇ったシンだったが...ジュリは直ぐに立ち直り
「ついでにランドセルとか、セーラー服、あとブルマ付きの体操服も用意しませんか?それとリコーダーとかも?」
ジュリは、言った物をカートに入れようとする。
「わ...わ、今の冗談だって、止めてくれ!」
わずかにジュリの方が一枚上手とシンは思った。
2人は、その後真面目に衣類を選んだ。
「あとアンドロイド用の栄養剤ね。私達は基本、人間の様な食事はしませんが体内エネルギーの補給する必要があります。アンドロイド用のゼリー状飲料水は必需品です。私達の身体は、人間の身体に近い形状で汗や分泌液を発散させる為、水分は欠かせません。粉末状の物と、ペッドボトル式、チューブ型等があります。他に体内電力補給の為に、ガムやキャラメル、スティック型に固めた栄養剤があります」
「何で、そんなのが必要なの?」
「人間だって身体を動かせば、自然と疲れは出るでしょ?それと同じですよ。身体の疲労の無い分、身体を動かすと電気エネルギーは自然と減って行きます。このガムやキャラメル、スティック等は、私達で言う食事な様な物で、軽くエネルギーを補充するのです。1番のエネルギー充電は電気枕です。大幅に減った電力を約8時間程の睡眠で補うのです」