第3話-1
「ナオさん…まぶしくて目が痛い…」
美さきちゃんが、滑走路の照り返しを受けて、私につかまりながら歩きます。
「そっかぁ、美さきは目の色薄いものね。大きいけれど、私のサングラスを使いなよ。
町で買ったげるから」
「でかい…」
日本は冬ですが、ここニュージーランドは夏です。
「日差しが強いなぁ」
ナオさんがパソコンを見ながら言います。
「よし!冬休みに、みんなでニュージーランドに行こう!」
「えっ?NZって外国のNZですか?」
「そうだよ。山岳マラソンのいい大会があるから、出てみたいんだ」
「私たちもいいんですか?」
「トーゼン。NZは世界のイナカだし、
大会会場はさらにイナカだから、女の子3人でも危なくないよ」
「ナオさんは、行ったことあるんですか?」
「子供の頃、祖父と一緒にね。英国人にとって、NZは親しみのある国なの。
コモンウェルス、イギリス連邦っていうのよ。
オーストラリアと違って、危険な動物も少ないし、
キウィに代表される鳥ちゃんパラダイスなんだよ。
NZの山歩きは楽しいよぉ。山歩きしていると、小鳥が先導してくれるんだから」
「わぁ、かわいいなぁ」
「よし!決まった!早速、レースに申し込んじゃおう。人気があるから早くしないとね」
お母さんに相談です。
「ナオさんがNZに行こうってさ…」
「聞いてるわよ。行って来なさい」
「でも、お金のこととかさ…」
「そのへんは、ナオさんと話をしてあるから大丈夫よ。
子供の心配するところじゃないわ。何も気にしないで行って来なさいよ。
ナオさんはいずれ世界に出て行く人だわ。ナオさんのパートナーを務めるなら、
世界を見てこないとね」
「はい」
私と美さきちゃんは、飛行機も海外旅行も初めてです。
機内で、美さきちゃんはiPadで音楽を作っています。
ナオさんはファッション誌などを読んでいます。
私はとにかく全部が珍しくて、窓の外を見ています。
「NZ航空って直行便なんですね。どこかに経由するのかと思ってました」
「レースの日程に合わせて、二人は学校休んでるから、余計な時間は使いたくないの。
サービスもとてもいいのよ、エコノミークラスだけどね。
ゆえが大切にお金を使ってくれているのに、無駄にファーストクラスとかしないよ」
「ありがとうございます。うれしいです」
「ナオさん…この機内説明のビデオおかしいよ…」
「なぬ?あれ?よく見るとキャビンクルーの制服がボディペインティングだぁw」
「あらら?結構ギリギリなアングルがありますねぇw」
「ヘンな航空会社…」
「ナオさん、さっき入国の税関で言っていた『こんくりーとねいる』ってなんですか?
そんなもの持ってましたっけ?」
「・・・」
「ネイルって釘って意味ですよね?まさか!例の投げナイフじゃ…」
「しっ!!声が大きいよっ!空港内でブッソウなこと言わないの。
おみやげよ、おみやげ。日本製のコンクリートネイルは質がいいんだから」
「それって、武器密輸なんじゃ…」
「まー、人聞きの悪い。しょうがないでしょ。
機内には持ち込めないし、まさか本当のことは言えないし」
「家においてくればよかったんじゃ…」
「護身術なんだから、持ち歩かなきゃ意味無いじゃない。
祖父の薫陶を守ってるだけですぅ」
空港からはバスで移動です。滞在するのは、湖のそばの町です。
「小さい町ですねー」
「スーパーマーケットがあるから、ホテルに着いたら行ってみよう」
「どんな食材があるのかなー」
ホテルに荷物を置いて町に出ます。
「ナオさん…パン屋さんに鳥が入っていった…」
「ほんとだ!自動ドアに合わせて出入りしてる」
「パンくず拾ってるんだね」
「本当に鳥ちゃんパラダイスだ…」