第2話-1
「美さきー、荷物きたよー」
「あれっ?珍しいね。美さきちゃん、なにか買ってもらったの?」
「うん…シンセサイザー…」
ナオさんが小さいダン箱を持ってきます。
「しんせさいざあって?楽器の?あの箱小さいよ?」
開けてもやっぱり小さいです。大き目の弁当箱くらいです。
しかも、つまみやスイッチばかりで鍵盤もついていません。
「おー、早速スピーカーにつないでみよう」
ナオさんが配線します。
美さきちゃんがボタンを押すと、ドン・ドドン、とドラムの太い音がします。
「へぇ、小さいけれど、いい音がでるんだね。不思議」
美さきちゃんは嬉しそうです。
美さきちゃんがボタンをいじると、ドンタタ・ドンタタと自動で音が出ます。
「はー、音の出るタイミングを入力して、自動演奏するんだね。
ドラムセットの音はいいけど、メロディーはどうするの?」
「これかな?…」
チャカポコ、ギャリギャリと音が出ますが、とても音楽とはいえません。
「シンセシスって合成するって意味だから、ノブやスイッチで音を作るんじゃないの?
とにかくイジってごらんよ。
スイッチ類がたかが30個の弁当箱よ、自慢の類推能力で使いこなしてごらんよ。
あとで、取説読んであげるから」
「やっちゃる…」
美さきちゃんはヘッドホンを持って、自室にこもりました。
「へえー、美さきちゃんは音楽に興味があったんだなぁ」
「フツーのキーボードじゃないところが美さきらしいけどね。
あれがいい音が出るんだって」
「いつのまに」
「YouTubeじゃない?あの子、こないだマルチモニタで、
同時に二つの動画で音楽聴いてたわよ」
「えーっ!美さきちゃんて、学校の成績は普通だけれど、感覚とか感性が鋭いですよね」
「そうね、普通じゃないね。地球人かどうかもあやしいもんだ。
ゆえはどう?何かやりたいことはない?なんでもいいよ」
「私ですか?そーですねぇ。おいしいものが食べたいです。レストランですかねぇ」
「いいよ。ホテルでフレンチがいいかな?」
「あ、いや。自分で再現できないと意味がないので。
ちょっといいくらいのレストランでお願いします」
「なるほどね」
「やっぱり、おいしいものを食べないと、おいしいものは作れないと思うんです。
私、お料理好きだし、おいしいものを食べてもらいたいですから」
「ゆえはいい子だから愛しちゃおう。おいで」
ナオさんは私の手を引いて、ベッドルームに誘います。
久しぶりに二人っきりで、可愛がってもらいました。
2,3日して、美さきちゃんに演奏してもらいました。
チャラララララ〜♪チャララララ〜♪
「おっ、ファミマ入店音だwきれいな音」
「ナゼ、ファミマ入店音w」
「ニコ動でやってた…」
「美さきちゃんの興味の対象っていったいw」
「鍵盤無いけど、どうやって音階を出しているの?」
「これ…」
よく見ると、黒白のストライプが印刷されています。
先を閉まったボールペンで押して、器用に演奏します。
「おおっ、DJみたい」
身体が自然に動きます。
「これは踊れる」
ナオさんは踊っています。美少女DJの誕生です。
「美さき、必要な機材があったら言いな。私に走れる曲作ってよ」
「やってみる…」
ほどなくして、美さきちゃんは音楽教室へ通い始めました。