黒の他人<前編>-7
少し言い過ぎただろうか?
そもそもが今日は俺に詫びに来ただけのつもりのはず。
なのに、結局また飲まされたうえ、
あげく脱ぎたきゃ脱げだなんて……さすがに可哀相過ぎるだろ。
そう思った俺は頭を掻きながら、振り返り謝罪の言葉を述べようとするも、
「って、なにホントに脱いでんだよっ!?」
加奈は言われた通り、いそいそと布団の上でスーツを脱ぎはじめていた。
「ふえっ? ら、らって脱いでいいって……」
「いや、言ったさ?たしかにそうは言ったけど……」
箱入り娘──言い換えれば世間知らず。
ただでさえ酔っぱらった勢いで処女を失っているのに、
その男の部屋に再び訪れたうえ自らまた服を脱ぎ出すなんて……
そりゃこんな娘がいたら危なっかしくて見てられないわ。
俺は深い溜息をつきながらも、脱ぎ捨てられたスーツを手に取りハンガーに掛けた。
下着姿のまま布団にくるまる加奈。
よく見ると床にはブラジャーまでもが脱ぎ捨てられてある。
いくらなんでもそれは無防備すぎだろ──と叱りつけようとするも、
加奈はすでにスヤスヤと気持ちよさそうな寝息を立てていた。
俺は冷蔵庫からビールを取り出すと、まるで現実逃避するように一気にそれを飲み干す。
「んんっ むにゃ……」
寝返りを打ち、はだけた布団から薄い緑の下着が見えた。
なかはスーツとお揃いでしたってか?
なんて思いながらブラとパンツを交互に眺めるも、溜息ひとつ、俺は黙って布団を掛け直してやった。
加奈と出会ってからというもの、なんだか溜息の数が増えた気がする。