黒の他人<前編>-10
「別にいまさら恥ずかしがる事か?」
「だ、だって……」
「言ってみろよ?ここまで来たら驚きゃしねぇからさ……」
「んっ そんなに舐めちゃ あっ…… やぁっ」
軽く耳を舐められたくらいで、小刻みに何度も身体を震わせる加奈。
もともと敏感なのだろうか。
でも、やっぱりそれだけじゃ理由にならない。
あの感じ方、あの腰の動き、男に開発されたんじゃないとするといったい──
「…………じ、自分でっ」
「ん?なんだって?」
「んっ ひ、ひとりでずっと…… その……」
「……あん?はっきり言えよ?」
「だ、だからっ はぁっ た、多分…… ひとりでエッチな事ばかり……してたから……」
俺は思わぬ答えに動きを止めた。
そうか、なんでそんな単純な事に気がつかなかったんだろう。
箱入りのお嬢様だろうと同じ人間だ、生理も来れば思春期も迎える。
性への興味を持てばおのずと自慰行為に至るのなんて、それこそ至極当然の流れだ。
厳粛な家庭に育ったがゆえ、並々ならぬ抑圧に自慰行為へと逃げるお嬢様。
たしかにそれだと誰の手も借りず自身を開発する事も──充分可能だな。
「つまり…… 自慰行為にばかり耽ってたって事か?」
「そ、そればかりしてたわけじゃっ」
「いや、結構してただろ?でなきゃ、ああも激しく感じたりは……」
「やぁっ もうっ それ以上言わないでくださいっ」
そう言って加奈は布団の中にうずくまってしまった。
なるほどね。社長令嬢が人知れず自己開発とは、なかなかそそるシチュエーションじゃねぇか。
「見せてみろよ?」
「……え?」
よく聞こえなかったのか、ぞもぞと布団から顔を出す加奈。
怯えた様子がこれまたなんとも言えない。
俺はそっと右手を加奈の顎に当てると、ゆっくりと唇を重ねていった。