12-1
窓を明け放って風を取り込む。
視界を世話しなく行き来し遮る前髪を見ては、つくずく伸びたなと思う。
太陽は一日で一番高い位置で輝いている。
気の抜けるような時間が流れる。
日差しは部屋の隅々にまで届き、影はしばし成りを潜めた。
しかし心にまでは届かない。
自分でそう思う限りは、その様にしかならないのだろう。
目を閉じれば、浮かぶ。
二人の男。
鳥肌が立つ。
吐き気がする。
頬の痣は日を追って薄くなる。
しかし外と内は勝手が違う。
自分はもう少し強い人間だと思っていたが、つくずく自分は女であるという事を認識させられた。
力では勝てない。
あの時、誠が来なかったらどうなっていたのか。
そもそも木下達の誘い掛けを断りさえいていれば、誠も含めこうはならなかったのでは。
気を使ってくれた真紀にも申し訳ない。
後悔ばかりが募る。
クラスで自分はどう思われているのか。
体裁を気に掛けた事は一度として無かったが、今回ばかりは違う。
影口を叩かれるだろう。
ネットに心無い書き込みもされるだろう。
彼氏も出来ないかもしれない。
焦がれた男に助けられたのは幸いだったかもしれないが、自分のせいで深い傷を負わせてしまった。
醜態も晒してしまった。
ネガティブな思考しか回らない脳味噌なんかいらない。
それでも、兄は自分の為に涙を流してくれた。
笑わせてくれた。
強がって気丈に振る舞ったのも事実だ。
これ以上心配はさせられない。
しかし、嬉しかった。
兄だけじゃない。
美保、鉄弥一家、暁生、クラスメイト達、担任、そして誠からも。
励ましのメールを見るたび奮い立たされ、同時にここまで自分は弱いのかと思い知らされ返信に踏み切れないでいた。
兄がくれたサボテンに目をやると、一角に蕾が見える。
もうそろそろ開花するのであろう。
自分もそうありたい。
心から願った。
不意にノックの音が響き、背筋が伸びた。
勢いで返事はしたが、その声は届いただろうか。
扉が開く。
ジャージ姿で左腕を固定された男が、立っていた。