起きてるんだろ?-9
翌朝、目覚めるとそこに女の姿はなかった。
まぁ、予想通りというか想定の範囲内だ。
ポリポリと頭を掻きながら身体を起こしベッドに腰掛ける。
ぼんやり部屋を見回していると、テーブルの上に小さなメモ書きを見つけた。
対価を払えと請求書でも置いてあるのかな?
それとも恐いお兄さんからの督促状?
そんなつまらないことを考えながら俺は、そっとそれを手に取り目を通した。
──昨晩はご迷惑をおかけしました。加奈──
ただ一言それだけ。
ひょっとしてと思い裏返してみたものの、特に何も書かれていなかった。
俺は思わずくすりと笑った。
二十歳にしては随分と幼い文字に、二十歳にしては随分と擦れた書き置きに。
「加奈ねぇ…… やっぱ起きてたんじゃねぇか」
誰もいない部屋でひとり俺はそう呟くと、メモを丸めてゴミ箱へと投げ捨てた。
やっぱり酔っぱらいに関わるとろくなことが無い。
そう思いながらも俺は、どこか満更でも無かった夜に自然と顔が綻んでいた。