ホワイトアウト-2
「メールでセックスしてたでしょう?正確にはオナニーだったけど」
背中に悪寒がはしった。彼女はどこまで知っているのか、その果てが見えない。
秘め事を盗まれたことへの羞恥と、彼女の目的がわからない焦りが募って、私の頭は混乱していた。
「三月さんのことなら何でも知ってるよ。約束の物もちゃんと準備してあるから、私が使い方を教えてあげる」
おっとり言いながら彼女は白いダウンジャケットを脱いで、ソファに置いた。
やはり本館の食堂の窓から見えた白い人影は、雪男でも雪女でもなく、夏目由美子だった。
雪景色に溶け込むようにわざわざ白い上着を着て、カムフラージュしていたのだろう。
そんなことよりも私が目を奪われたのは、彼女のなめらかなボディラインだった。
細身でありながら豊かに張ったその胸は、セーターの生地をまるく盛り上げている。
くびれた腰、安産型の下半身、脚はすらりと長い。コンプレックスの要素など微塵もない。
いつもそばで見ていたはずなのに、なぜだか今はその魅力が強調されているように感じる。
「ずっとセックスレスだったなんて、三月さんが可哀想」
夏目由美子は両腕をクロスしてセーターを脱ぎ落とした。あらわれた肌着の質感が彼女の裸を想像させてくる。
「もうやめようよ。そんなつもりでここに来たわけじゃないから。ね?」
私が言うと、彼女はデニムパンツに手をかけ、膝下までの動作にたっぷり時間をかけて下ろしていく。
それから一呼吸おいて、片脚ずつ抜いた。
夏目由美子の顔には、男の前でしか見せないような女の表情があった。
「メールでセックスなんて、そんなの妄想だけの偽物だよ。肌と肌がすり減るくらい体を密着させて、一ミリだって離れたくない。それがほんとうのセックスでしょう?」
彼女の言葉は私の耳に粘着した。いい加減に相手をすれば、逆上されかねない雰囲気がある。
私は黙って彼女の様子に注意を払った。
夏目由美子がタイツを脱ぐと、そこに白いショーツの底辺があらわれた。太ももの肌色に挟まれ、淫らなベールに包まれている。
「ほら。バイブが欲しいって、自分の口で言わなきゃだめだよ?」
上半身の肌着を脱ぎつつ彼女は言った。その透き通る肌が私を惑わせる。
「私のことを抱きたくなった?」
自分のペースで事が運んでいることに、彼女自身が酔っているに違いない。
ここから先は禁断の領域になる。一線を越えてはならない。
「そんなことをしたら、夏目さんが汚れちゃうよ」
「三月さんとなら汚れたっていい」
「友達同士で、女同士でこんなこと……」
「私は三月さんのことが好き。愛してる。初めて会ったときから、ずっと」
その告白を聞いた瞬間、私は彼女を軽蔑した。同性愛者を否定してしまった。
そして、そんな自分さえも軽蔑した。
「こんな私なんて、三月さんは嫌いだよね。女が女を好きになるなんて、信じられないでしょう」
夏目由美子の目は潤んでいた。そして私が寝かされているベッドまで歩み寄ると、そこに腰掛けた。
私の体には毛布がかかっている。彼女がそれをゆっくり剥がすと、そこで私は事態の異様さに息を呑んだ。
玩具の手錠が手足を拘束していて、しかも全裸にされていた。
「冗談でしょ?」
「心配しないで。電気が元通りになって空調も動いてるから、寒くないでしょう?」
彼女の眼差しが、私の次の言葉を制した。熱視線が私の全身に降りそそいでいる。
「綺麗な体。頬ずりしたくなっちゃう……」
彼女の呼吸に熱いものが漂いはじめた。
「三月さんのあそこを見てたら、私も感じてきちゃった。舐めて欲しい?」
夏目由美子は私の太ももに跨り、そして私の局部を物欲し顔で見つめている。私は焦った。
「夏目さんの気持ちはわかったから、一つだけ聞かせて。夏目さんは結婚もしていて、子どもだっている。それってちゃんと男の人を愛せている証拠だよね?」
このあと彼女の顔色が少し曇った。そして遠くを見つめる仕草をする。
「私、だめなんだよね。浮気はもちろんだめだけど、そうじゃなくて、だめなの。男の人が」
彼女の声は震えていた。得体の知れない感情が彼女の身をおそっているのだろう。
彼女は泣いていた。何か複雑な理由がありそうだと思った。そして彼女の気持ちをわかってあげたかった。