あの頃出来なかったこと-7
一度触れてしまったら、もう歯止めがきかなくなったらしい優真先輩は、そのまま貪るようにあたしの唇を求めてきた。
上唇、下唇を食むような優しいキスを何度も繰り返し、少しずつ深くなっていく。
「んんっ……」
戸惑い気味だったあたしも、次第にゆっくり彼の舌を受け入れ始めた。
「……恵……」
そっと離した唇は、互いの唾液で濡れて光っていた。
優真先輩はあたしの身体を抱きかかえると、そのままベッドに引き上げ優しく横にする。
そして、覆い被りながらそっと口を開いた。
「恵、オレ………もう理性きかないかも。覚悟できるか?」
その言葉にまた陽介の顔が浮かんで、一瞬顔を歪める。
大好きだったけど。いや、今この時ですら大好きでたまらないけど。
でも、あたしの想いはもう届かない。
ツーッとこめかみに流れ落ちた涙が耳の穴に入っていく。
ビックリするほどその涙は熱かった。
――さよなら、陽介。
あたしが言葉の代わりにただ黙って頷くと、優真先輩は、
「恵……、今は何も考えなくていいから」
と言って、再び何度もキスを注いでくれた。
優真先輩のキスは本当に優しくて、あたしを好きでいる気持ちがその唇から伝わってきた。
あたしの服を、そっと脱がすその手は微かに震えていてか身体に触れる時も恐る恐る、といった感じで。
無理もないか。優真先輩はあたしに何度も身体を拒まれていた過去があるから、服ひとつを脱がすにしても少し臆病になっているのかもしれない。
付き合っていた時は裸を見られることが恐くて、セックスなんて絶対できなかったのに、今の優真先輩なら全て委ねられるくらい信じられる。
「先輩……。あたし、大丈夫です」
優真先輩に向けて言ったつもりの「大丈夫」は自分に向けても言える言葉。
大丈夫、優真先輩に身体を預けられる。
大丈夫、きっと優真先輩をもう一度好きになれる。
大丈夫、優真先輩がいてくれたら陽介を忘れられる。
何度も自分に言い聞かせてから、あたしは自分から優真先輩にキスをした。