タイムカプセル-5
蓋を開ければ見覚えのある僕の宝物が色褪せて出てきた。
腐食した缶の中に入っていたアニメのシールは湿気でフニャフニャ黄ばんでいたし、ビー玉はなんかヌルヌルしていたし、新幹線の腕時計は当然ながら電池切れになっていた。
あの時は自分の一番の宝物を埋めたつもりだったのに、十年経てばそれはゴミのようになっていた。
宝物がこうやって劣化してゴミに変わるように、人の気持ちも風化したり忘れていったりするのかな。
そんなことを考えてると母さんからの手紙を読むことにためらいが生まれた。
十年前の気持ちの変化を目の当たりにするのが怖かったのだ。
僕は母さんにあてた手紙の内容など何一つ覚えていない。
たとえ、母さんに対する親愛の情を込めたつもりでも、数年もすれば“うるせえ、ババア”なんて鬱陶しがる感情に変わってしまった。
人の気持ちも必ず変わる。
僕のことを愛しいと思ってくれていた母さんだって、クソ生意気に育ってしまった僕のことをいつしか疎ましく思うようになっていたかもしれないのだ。
もし手紙の内容が、期待に満ちた希望溢れる文章だったら、きっと母さんは今の僕と比べてため息をついてしまうかもしれない。
あんな手紙書かなきゃよかったって、天国で母さんは思っているんじゃないかという不安が急によぎった。
バクバクする心臓の高鳴りに気付かない振りをして、生唾を飲み込んでから、僕は大きく深呼吸をし、やけに白い封筒の端っこをゆっくり破っていった。
やけに白い封筒の中に入っていたのは、湿気で波打った黄ばんだ便せんだった。
封筒自体はまだ黄ばみも少ないのに、なんで便せんだけがやたら古びているんだろう。
しかし、母さんからのメッセージを目の前にして、そんなことはさほどの問題にもならなかった。
あの時母さんが書いた、現在の僕へのメッセージ。
意外と僕のことを買いかぶっていた母さんのことだから、“プロ野球選手になってるかな”なんて書いてあるかもしれない。
今のこの冴えないフリーターをやってる自分の現状が恥ずかしくなりながらも、僕は折り畳まれた便せんを広げ始めた。