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タイムカプセル
【家族 その他小説】

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タイムカプセル-4

僕がタイムカプセルのことを思い出したのは、母さんを無事送り出し、喪が明けてしばらく経ったある日のことだった。


朝食を済ませた僕は、たまたまつけたテレビに流れて来たローカル番組のワンコーナーに視線を移した。


冴えないローカルタレントが、県内のあちこちを訪ね歩いて、美味しいものを紹介したり、イベントを案内する他愛のないコーナーで、今日はおじさんタレントが、とある小さな田舎の小学校を訪れていた。


なんでも、今年度いっぱいで廃校になってしまう小学校の、最後の卒業生がタイムカプセルを埋める、というものを紹介していた。


それを観て、そういえば僕も母さんとタイムカプセルを埋めたことを思い出した。


ふと、テレビからカレンダーに目を移す。


埋めた日なんてとっくに忘れていたけど、葉桜の季節だったことを思い出した。


しかし今は桜も満開で、掘り起こすには何日か早い。


フライングして掘り起こしてしまおうかとも考えたけど、不意に母さんがクスクス笑って“ダメよ”と言っていたのを思い出したので、葉桜になるのを指折り数えて待つことにした。


そのタイムカプセルの存在は、いまだ母さんに対する後悔の念にかられていた僕の心に、じんわり優しい光を照らしてくれたような気がした。


葉桜の季節はすぐ訪れた。


それでも、僕にとっては長く感じたが。


毎年、満開の桜があっという間に散って行くのが寂しくて、いつもなら、ずっと満開のままだったらいいのに、と思っていた僕だけど、今年だけは早く葉桜になって欲しくてたまらなかった。


僕の頭には満開の桜よりも、タイムカプセルを掘り起こすことしかなかった。


母さんが死んでしまっても、一度も夢枕に立ってくれなかったし、死に際に母さんから何も言われなかった僕にとって、母さんとのつながりは、もうタイムカプセルしか残っていなかったのだ。


ドキドキしながら、桜の木の下にしゃがみ込んで、微かな記憶を頼りにタイムカプセルを埋めた辺りをザクザク掘り返してみた。


僕のタイムカプセルはすぐに見つかった。


でも、母さんのタイムカプセルはそこら中をいくら掘り起こしても、見つからなかった。


確かに隣に並べて埋めたはずなのに。


不思議に思いながらも、僕はその場に座り込んで、ポンポンと缶にくっついていた土を払って、ガムテープを剥がし、自分のタイムカプセルを開けることにした。


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