「すき?」-1
「オーイ、もうここ締めるぞ〜」
その声にハッとし、私は本から顔をあげた。顔を上げると、数学の北沢先生が意外そうな顔で私を見ていた。
「なんだ、藤崎か。藤崎が図書室にいるなんて、似合わないな。」
北沢先生はいつものように私に憎まれ口を叩いてきた。
「ウルサイな〜。谷江先生に本戻しておいてって頼まれて、久しぶりに図書室来た
ら、何か読みたくなったの!私だってたまには本くらい読みますよ!」
私は膨れっ面で応戦してみた。。
「そうだよな〜オレの授業の時も一生懸命マンガ読んでるもんな。」
北沢先生は口元だけ皮肉に笑って見せた。
私は・・・返す言葉が無い。うう・・・私の負けだ。バツが悪くて俯いてしまう。
北沢先生は一年の時の担任の先生だった。おそらく20代だと思われ、(この年代の男の人っていくつかよくわからない・・・)先生、というよりも陽気な兄ちゃん、という感じで親しみやすい。ルックスも細身だけど筋肉質な手足とか、笑うと八重歯がのぞいて、可愛い!と、女子の間では人気が結構あった。
しかし。なーんか、北沢先生は何かにつけてよく私をからかう。私もこの掛け合いが嫌いじゃ無いから、別にいいんだけど。もうちょっと他の子みたいに女の子扱いしてほしいもんだわ。
「もういいから早く帰れ。もう外は暗いぞ?」
北沢先生は、やれやれという顔をして優しく笑っていた。
私もほっとして帰り支度を始めようとしたら・・・はっ!
「どうした?」
北沢先生は怪訝そうな顔をして私を見た。
「先生、どうしよう。鞄が無い!」
「はっ?どこに置いて来たんだよ!?」
「多分教室だと思う〜」
私は泣きそうな顔をして、北沢先生を見た。窓の外は真っ暗で、廊下は薄暗い蛍光灯
でより不気味さを演出していた。ここを一人で通って教室まで行くかと思うと・・・恐
くて足がすくんでしまう。
「はぁ。ここ締めたら教室まで付き合ってやるから。今度からはちゃん鞄を持ってく
るか、時間が来たら帰りなさい。」
先生は、やれやれ、という顔をして、そう言ってくれた。
「うぅ・・・先生、ありがとう!」
先生は手早く戸締りすると、教室までの道のりを付き合ってくれた。
「先生、ホントありがとね」
私は先生を伺うように上目がちにお礼を言った。
「まったく。藤崎は本当にマイペースだよな。こんな時間まで、図書室に一人ぼっち
で本読んでるし」
先生は『またからかうネタができた』と言わんばかりにニヤニヤしながら答えた。
「もう・・・人がせっかくお礼してんのに。"ぼっち"は余計だい!」
私は、ジトッと睨んで応戦する。。
「ははは。でも、藤崎くらいの年齢だと、放課後は彼氏とデートとかが楽しい時なん
じゃ無いのか?あ。お前みたいなじゃじゃ馬じゃ、男できねぇか。」
ニヤニヤ笑いながら、先生はまた私をからかう。
「うわー。おもいっきりセクハラ」
私は、冷めた目で先生を見据えてやった。
「ははは。なんだ、図星か。」
先生は私の睨みに動じず、高笑いをした。それを見て、なんだか私も力が抜けてき
た。笑うの先生の口元から現れる八重歯を見ると、なんだか和んでしまう。
・・・言ってみようかな?
ちょっと間を置いてから、私は話を切り出してみた。
「・・・あのね、先生。」
「ん?どうした?改まって。」
先生は顔だけこちらに向けた。