俺だけの晴菜-5
「晴菜の事、どーにかしろよ?」
柄にもなく自分の顔が赤くなるのが分かった。
中学生じゃあるまいし!
「うわ・・・兄貴、中学生かよ」
クックックと笑い出す亮を無視して俺は店を出た。
大通りまで無言で歩きとまったタクシーに晴菜を押し込んだ。
そのまま家まで
俺たちは一言も話さなかったけど
つないだ手だけは
お互いに離さなかった。
家の前でタクシーを降りると
二人は無言でタクシーを見えなくなるまで見送った。
降りるときに離した手は相手を求めて
晴菜の髪にたどり着いた。
俺は晴菜の髪を一束とり
匂いをかんだ。
「タバコくさい・・・・」
「え?」
「タバコ。俺吸わないのに。
俺の晴菜がタバコくさいのは許せない」
「純にぃ」
「シャワーしておいで。俺も家に帰ってシャワーしてくる。
俺も負けずにタバコくさいからな」
「シャワー終わったら、うちに来てくれる?」
泣きそうな声で晴菜が言うもんだから
今すぐこの場で抱きしめたくなった。
「行くよ。話しもあるしな。ちゃんと鍵、閉めるんだぞ」
「うん。じゃぁ、待ってる。
純にぃ、うちの鍵持ってるよね?」
「持ってるよ」
お互いがお互いの家の玄関に消え
俺は急いでシャワーを浴びてタバコの匂いをとった。
話があるといったけど何を話そうかなんて決めていなかった。
でも
このまま「おやすみ」といって
晴菜を帰しちゃいけないような気がした。
亮から奪ってきた晴菜を今ここで抱きしめておかないと
逃げられてしまうような気がした。
ただ
このまま勢いで何かを言ったり
何かをしたりするのだけはだめだと思って
お互いに冷静になるための時間がほしくて
シャワーにかこつけた。