迷惑な来客-3
妻の妹にせがまれて、無視するわけにはいかない。
(世話がやける奴らだ…)
妻・美恵子に車を出してもらい、鳴海駅にほど近いところにある中華料理屋・幸楽に行くことになった。
幸楽に向かう道中、ホンダアコードの後部座席に座っている二人は陽気に語り合っていた。
「中華屋で何食べようかなあ? 俺はエビチリが好きだ」
「わたしはバンバンジーがいいな」
(まったく無神経な奴らだ)
「あっ!」
美恵子が急ブレーキを掛けた。車道の真ん中、男がふらふらと歩いていたのだ。
(あいつじゃないのか?)
勝雅は車から降りた。
「危ないじゃないか! あっ、あんたは」
和装の白髪男。ヤクの売人をやっていた石貫だった。着物の帯が緩く、今にもほどけそうである。
「なんじゃい! ああ、新田さんじゃないの」
「石貫、酔っとるんか?」
「新田さん、金貸してくれよ」
「あんたに貸す金はない」
「なんやとぅ!」
石貫は長い木刀を持っていた。いや、木刀じゃない。抜き身じゃないか。
石貫は白刃を抜いた。
「おい、血迷うな!」
銃声が響いた。
石貫は尻からすてんと倒れた。左横に視線を向けると、宮原が銃を構えて立っていた。ブローニングハイパワーか。
「おうっ、弾はまだ残っとるんやぞ!」
「助けて、助けて〜」
「早よう、こっから立ち去れや!」
石貫はヨロヨロと立ち上がり逃げていった。
「宮原、無茶するな!」
「おやっさん、威嚇しただけっすよ」
23時15分。
中華料理店・幸楽の駐車場にアコードを乗り入れた。到着する前、宮原は「俺らが石貫から没収したヤク、闇で出回っとるらしいっすね。おやっさん、ヤクを売りさばいとるんすか?」と後部座席から威圧的に言ってきた。
「そのことは折を見てゆっくり話そう」と、はぐらかしておいたが……。まったく油断ならない男だ。なんとかしなくては……。
幸楽はカウンター10席と四人掛けのテーブル席ふたつのこじんまりとした店だ。他に客はいなかった。儂らが店に入っていくと、店主の小野はニンマリと相好をくずした。
「いらっしゃい! 新田さん、お元気そうで何よりです」
「ああ…。小野ちゃんも元気そうじゃないか。おや、新しい店員さん入ったのかい?」