おもひでの場所-2
登美子は家に戻りたくなくても、仕方無く家に帰った。玄関を開けると、父が立っていていきなり登美子の腕を掴んで投げ飛ばした。
「痛い!!」
「お前はこの頃何をしていたんだ!!白状しろ!」
滅多に家に居ない父が何故こんなにもいきなり怒っているのかは、母が告げ口をしたのだと直ぐに分かった。
「何で言う必要があるのよ!!私の勝手じゃけん!!」
「なんだとぉ!?父親に対して反抗するのか!!」
暴力的な父は、更に登美子を殴った。
「まさか…男の元にいたのか!?」
「居て何が悪いけん!!こんな家も、日本も無くなればいいけん!!もうまっぴらじゃ!!」
「この野郎!!!!出ていけ!!お前はもうこの家の子じゃない!!」
父は怒りだしたら止まらない。胸倉を掴み、玄関の外へ登美子を
投げた。
登美子は、いっそ死にたいと思った。しかし、まだ清次が死んだと決まったわけではない。登美子は決意した。広島市内を離れ、清次を探す事にしたのだ。この日、8月4日。それは、広島に原爆が投下される1日前の夜の事だった。
登美子は必死に歩き、やっとの思いで広島市内から出た。着いた頃には早朝。空襲はないものの、外は何時、爆弾が落ちてくるかは分からない。しかし清次を探す為ならば登美子は覚悟出来ていた。
「あの、広島市の軍事学校の方々は何処へ出陣されたか分かりますか?」
「知らないねぇ、娘さん今は戦争中なんだから用心しなさいよ」
人に聞き取ってから一時間半、8時を過ぎた頃だろうか…
突然、ピカリとした光がものすごい早さで辺りに広がった―、
「熱い…!!」
周りの人々は次々に光りに呑まれていった。
…登美子がいた地域は爆心地から遠かったので、放射能の被害はそんなにも受ける事はなく、軽傷で済んだ。
間もなくして、広島市内に住んでいた家族は皆放射能を浴びて死んでしまったという連絡が登美子の耳に入った。清次の消息は、60年後の時を経ても分からぬまま…
…「はぁ…」
溜め息を一人でつく60年後の登美子。景色は変わり、広島市内も、日本も変わり、世は平和な時代になった。
思いをはせて、目の前のビルが立ち並ぶ景色を見ていると、白髪の生えた老人男性が、登美子に話しかけてきた。
「ここ、座ってもよろしいですか?」
「えぇ、どうぞお構い無く」
男性は黙っていたが、しばらくして切り出した。
「此処は僕の思い出の場所なんですよ。」
「昔でしたら、景色が綺麗だったのでしょうね。」
「昔、此処に想いの人とよく来ました。恥ずかしいのですが、結婚しようってプロポーズしたりして。」
「あら、まあ」
登美子は人の事かと思った。