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おもひでの場所
【悲恋 恋愛小説】

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おもひでの場所-1

広島県。うっとうしい暑さに蝉の声、今日は8月15日終戦記念日。今年で77歳になる登美子は、原爆ドームからほど遠い自分だけが知っている『秘密の場所』へ向かった。そこは、広島市内が一望出来る山。真夏だというのに、 森林が日を隠していて涼しい。登美子は「どっこいしょ」と言いながら、大きい石に腰かけた。

登美子は回りの景色を見、60年前の記憶を回想する…

60年前、広島市内

「広島にB29が来ないならええんだけど…」登美子の母が心配そうに言う。
「大丈夫じゃ、日本のお偉い軍人様が守ってくれるけん」
妹は無邪気に言う。
「軍人様だって、守ってくれるか、分からけん。第一日本は負けてんやろ?ウチらを守る余裕なんぞ無い筈やろ?それにな…」
17歳の登美子は話を続けようとした、が、その時母は登美子の頬を思いっ切り叩き、凄い剣幕で怒鳴った。
「日本が負けている筈ないやろ!!お国に対してなんちゅう事言うんや!!」
「本当の事やけん!ホンマの事言ってなにが悪いけん!!」
そう言うと登美子は外に走り出た。

反抗期のせいだろうか、親や家族に反抗をしてしまう。今日は家に戻りたくないと登美子は思い、『あの場所』へと向かった。
行くと、一人の少年が立っていた。登美子を見ると、ニコりと笑う。

「清次さん…私が此処へ来ると分かっていたの?」
「二人だけの秘密の場所だろ?分かるに決まっているじゃないか」二人は石に腰かけた。目の前に広がる景色を眺めながら、二人は話始めた。
「今日は家に戻りたくない…」
「どうして?」
「また母さんと言い合いになったの…日本は負けるって当たり前の事言っただけや…」
「俺も、家には戻りたくない…お国の為に働けと言われたけど、こんなに腐った国に働くつもりなんてない…俺は君と一緒に居れるのが1番幸せなんだ…」「清次さん…私も…あなたと居れる事が、1番…幸せ…」
「そうだ、戦争が終わっていつか身を固める時が来たら、結婚しよう!」
「せ、清次さん!そ、そんな急に…私…」
登美子は顔を真っ赤にして下を向く。
「やっぱり…駄目か?」清次は沈んだ声で問いただす。
「ううん、とっても…嬉しいけんよ…でもね、まだ恋人の関係でいたいけん…清次さん、愛してる」
「登美子…俺も、愛してるよ…」
二人は口を重ね合った。ずっと、ずっと。しかし、幸せも、そう長くは続かなかった。


数週間後、二人はまた『あの場所』に会うことを約束し、登美子は約束通りの時間に訪れた。が、何分経っても彼は来ないのである。
「清次さん…どうしたのかしら…?」
二時間位待ったところで、登美子は町へ出た。清次が通っている軍事学校は今日は休みで、来れるはずである。こんな事は一度も無かったのに…と不安を募らせながら、清次が居そうな思い当たる所を探してみた。が、やはり何処にも居なかった。とぼとぼと町を歩いていると、知り合いの叔母さんが登美子の目に入った。物は試しだと、登美子は叔母さんに声をかけてみた。
「叔母さん、今日は、軍事学校は休みなんですか?」
「いや、何や、軍事学校の生徒全員、学徒出陣したらしいけんよ。まだ若いのになぁ…お気の毒で…」
登美子は愕然になった。学徒出陣したら、生きては帰れないと聞いていたからである。
目頭には既に涙が溜っている。
登美子は方向転換すると、涙を手で拭いながら走った。泣いても仕方が無いと思ったが、涙は出る一方だ。登美子は『あの場所』へ辿り着くと、大声で叫んだ。
「清次さん…!!なんで、なんで…!!死に行くならいっそ…私も引き連れて…!!清次さん…!!」
登美子は地面にへなへなと崩れ落ちた。そうだ、私も死ねばいいんだ…と登美子は思った。


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