ツェツィーリア【1】〜8月19・20日(月・火)〜-3
「おっ、かわいこちゃんはっけ〜ん!」
などと油断していると、一人の若い男性が話しかけてきました。
片耳にピアスをし、髪を金色に染め、ポケットに手をつっこんで腰を曲げている品のない格好。
「ねぇねぇお姉さん、もしかしてアメリカ人?ニーハオ」
「…………」
どうしてアメリカ人だと思ったのに中国語で挨拶をしたのか――そんな疑問よりも嫌悪感が勝ち、相手にしたくないので無視をする。
「あれ、今のしゃれだったんだけど通じなかった?もしかして日本語わからない?ハローハロー」
「…………」
鬱陶しい。さっさとどこかへ行かないかしらと心底願う。
お父様、日本人なんてやはり野蛮で汚らわしいだけですわよ。
「もしかして英語もわからないのかな……グーテンターク」
ピクッと思わず反応して彼のほうを見てしまった。
「お、もしかして通じた?グーテンタークって何語だっけ……フランス語?」
それはボンジュールだろうが!とらしくないツッコミを心の中だけでしてみる。
「ねぇねぇ、俺と一緒にホテルでも行かな〜い?フランスってそういうのオープンなんだろ?」
偏見にもほどがある。それにワタクシはドイツ人ですし!
「なあいいだろ?お金は俺が持つからさ」
「あ、ツツーリアさん!」
逃げてしまおうかと立ち上がりかけたところで、見知らぬ少年が私の名前――ニュアンスは怪しいけれど――を呼んで近付いてきた。
たしかイチジク・ジュンイチさんは、お会いしたことはありませんがお父様とそう変わらぬ年齢のはず……じゃあ彼はどうしてワタクシの名前を……?
「あ?」
「おかえり、ツツーリアさん」
両手を握られてぶんぶんと激しく動かされる。
な、なんなんですのこの方……。
などと当惑していると抱きしめられた。
「っ!?」
日本人は挨拶するときにハグをしないと聞いていただけに、日本人にハグされた嫌悪感よりも驚きが勝った。
「ちっ、野郎もいんのかよ」
舌打ちをし、先に話しかけてきた野蛮な男性が去っていく。
少しして後に来た少年がワタクシの体を離す。