生徒会へようこそ【MISSION'6'犬のキャロルを発見せよ!】-1
息を吸うと、暑い空気が肺に溜まる。
蝉の鳴き声、日差しに負けない運動部の青春に満ち溢れる姿、輝く桜の青葉、そしてだらけきった生徒委員会。
「あっづ…」
せっかくの夏休みに、僕達は何をしているんだ。
「オッさ〜ん、この部屋クーラー無いんですか」
「ねーよ」
汗だくで床にへばりついているオッさんが答えた。(オッさん曰く、床が一番涼しいらしい)
「でも教室全完備ですよね、この高校」
「ここはな、旧校舎なんだよ!きゅーこーしゃ!」
ああ、そうだった。
ここは旧校舎。全完備になる前の旧校舎。どうりで僕たち以外に旧校舎使ってる委員会が無いはずだよ。
…暑いもの!!ものっすごい暑いもの!!この暑さ知ってりゃ誰も寄り付かんわ!!
「キミさんと小鞠さんは暑くないんですか…」
「暑いぞ」
涼しい顔でキミさんが答える。
嘘だ。そんな平然としてられる訳無い。肌とかサラッとさせやがって。
「あたし、冷え性気味なの。このぐらい暖かい方がちょうどいいんだよね〜」
暖かいなんて生易しいもんじゃないっすよ!35度ですよ!おかしいですよ!
「いいか、優!気の持ちようだ!心頭滅却すれば暑さなんて感じんぞ」
宝さんがさも当たり前と言うように、机に突っ伏す僕を見下ろす。
「僕、宝さんじゃないから無理」
どこの僧だよ。心頭滅却とかすぐ出来るわけないだろ。でも宝さん本当に暑くなさそうだな。元気だし…。
心頭滅却の仕方、習おうかな…。
っておい!僕までそっち側に行っちゃダメだろ!まともな奴がいなくなる。
「ねぇ、オッさん。帰りましょ?夏休み入って一週間、毎日集まってますけど誰も来ないじゃないですか…」
どうして暑い思いして、何もせず一日を終わらせなきゃいけないんだ。
「宿題でもしてろよ」
「初日に終わっちゃいましたよ!何もやること無さすぎて!」
「俺のやれよ」
「やってあげたいのはやまやまですが無理です」
ミーンミンミンと蝉の声が一際大きくなった気がした。開け放った窓からは風なんて入ってこない。入ってくるのは藪蚊だけだ。
「ねぇ、帰りましょう?ねぇねぇ、ねぇねぇ」
僕のねぇねぇ攻撃が少し通じたのか、オッさんが起き上がって床の上に胡座をかいた。
「おかしいなぁ。毎年もう少し忙しいんだけどな」
口をへの字にして、オッさんがぼやく。
─コンコン。
オッさんのぼやきが聞こえていたかのように、扉をノックする音がした。
「ほらみろ」とでも言わんばかりのどや顔を僕に向けると、オッさんはどっこいしょと起き上がり、定位置の机の上にでんと座った。
「ど〜ぞ〜!」
小鞠さんが扉に向かって声をかける。
そっとドアが開くと、そこには顔を赤くした女生徒が恥ずかしそうに立っていた。
「あ、あの…生徒委員会って…ここ…ですか?」
「そうだぜ。生徒会へようこそ。まぁ、入れ」
オッさんが手を広げてその子を歓迎した。
女生徒の名前は下村 照美。2年生だそうだ。
「下村先輩どうしたのですか?何か悩みですか?それとも困り事でもあるのですか?さぁ、寿絵瑠にどうぞ気がすむまでお話しください!」
水を得た魚のように目をキラキラさせて宝さんが身を乗り出す。
「あ…その」
「宝さん宝さん…ちょっと。もう少し落ち着こう」
下村さんだいぶ引いてるし。
僕は宝さんのブレザーの裾を引っ張って、少なくともお尻は椅子にくっ付けさせた。
「お前な〜、委員長は俺だぞ。俺の役割奪ってんじゃねぇよ!で?宝じゃねぇけど、用件はなんだ?」
オッさんが首を傾げる。
「あ、はい。ちょっと…頼みがあって」
宝さんの異常な食い付き見たあとだからか、下村さんはホッとした表情でカバンから一枚の紙を取り出した。
「この子を探すの、手伝って欲しいんです」