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想-white&black-
【女性向け 官能小説】

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想-white&black-N-7


「どうぞ、花音ちゃん」

彼に低く艶っぽい声で名前を呼ばれると何だか妙に照れくさくて落ち着かない。

「……すみません、ありがとうございます」

運転手がさっと車のドアを開けてくれたので降りると玄関の前には理人さんと瑠海さん、瑠璃さんが立っていた。

「あの……、ただいま帰りました」

何となく気まずくて彼らの前に立つと、理人さんは表情を変えず、双子は多少戸惑いながらも普段通り出迎えてくれた。

「お帰りなさいませ、花音様」

「お帰りなさいませ」

いつもと変わらない風景だったがただ一つ違うのは隣にいる人。

楓さんじゃない、別の男の人。

「久しぶりだね、佐原」

彼は前に進み出ると理人さんに向かってにこやかに声をかけた。

「彰斗様。お久しぶりでございます。まさか今日突然お目にかかるとは思ってもいませんでした」

「全くだな。俺もだよ。元気にしていたか?」

「はい、この通りです。彰斗様もお変わりなさそうで何よりです」

『アキト』と呼ばれたその人は理人さんと言葉を交わした。

やはりこの人は楓さんやその周りの人達まで知っているのだ。

……それもだいぶ昔から。

「楓様はいるかい? 久々に顔でも見ていこうかと思ったんだが」

「申し訳ありません。楓様はまだ学園からお戻りになられておりませんので……」

理人さんがそう言いかけた時一台の見慣れた車が入ってくるのが見えた。

「あ……」

その車が私達の側に止まるとドアが開かれ彼が降り立った。

「何の騒ぎだ」

よく通る凛とした低い声が辺りに響く。

「楓さん……」

今日は遅くなると言っていたはずなのに、思っていたよりも早い帰宅に驚きを隠せない。

「花音、今帰ってきたのか?」

「楓さん、今日は遅くなるんじゃ……」

尋ねると呆れたように溜め息をつかれてしまう。

「お前がどうしても車に乗らずに帰ると言うから仕方なく仕事を早く片付けてきたんだ」

「えっ、そうなんですか?」

思ってもみなかった言葉に心臓が高鳴る。

私のため……だと思ってもいいということなのだろうか。

「後から車で行けばお前に追い付けると思ったが全く見当たらないから何かあったのかと帰ってきてみれば……」

楓さんの視線が私の隣にいたアキトさんに向けられる。

「ご無沙汰しています、楓様」

「やめてくださいよ、その呼び方。彰斗さんにそう呼ばれると気持ち悪い」

恭しく頭を下げた彰斗さんに向かって楓さんが苦い顔をする。

そんな顔をするなんて珍しいと思いながら、会話のやり取りからやはり二人は旧知の仲なのだと察することができた。

思わずお互いの顔を交互に見比べてしまう。

彰斗さんの何かを企んでいるような悪戯な表情に、楓さんも諦めたようにまた溜め息をついた。

「一応立場上そう呼ばないとね。まあここではそんなに堅苦しくならなくてもいいんだけど、さ」

「彰斗さんも色々忙しいんでしょう? 噂は聞いてますよ」

「うーん。それなりだけど楓も人の事は言えないだろうに」

二人の間で淡々と会話が進められていくのをただ眺めてるしかできない。

何だか間に入れないような雰囲気が漂っている。

そんなやり取りの中、不意に楓さんが視線を私に移してきた。

「ところで今日はどうしてここに? 珍しいじゃないですか」

「彼女を危うくうちの車で轢きそうになってしまってね。お詫びに送らせてもらったんだ」

「花音を?」

楓さんの表情が僅かに変化する。

すっと目を眇め、鋭さが覗く視線を彰斗さんに投げ掛けたが、彰斗さんはそんな楓さんの視線を気にもせずさらりと答えた。

「ああ。幸い怪我はさせずに済んで良かったよ。まさか彼女が花音ちゃんだとは思わなかったけれどね。噂はこちらにも届いていたから名前を聞いてびっくりしたよ。ぜひともその現場が見たかったな」

彰斗さんはこれまでの経緯を話しながら笑顔を向けてきたが、私には何のことかさっぱり分からない。

だが彰斗さんのその言葉で二人の間の空気が先程までと変わったことは何となく感じられた。




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