危険な娘-1
******************
だが、小学生や中学生は親と一緒に来るが、たまに自分1人で来る高校生などがいる。
看板の説明には、『未成年は必ず保護者同伴のこと』と書いてあるのだが、3000円くらいならなんとかバイトで稼いで自分1人で来るということなのだろう。
そういう子を受け入れるのは違反行為だが、私はここに来たことを誰にも言わないように暗示をかけて帰すことにしている。
はっきり言って施術をして料金を貰うのだが、門前払いされた記憶をつけて帰すのだ。
お金はコーラやハンバーガーなどで食べてしまった記憶にしてしまう。
違法行為をしたことがわかれば営業差し止めになるからだ。
だがそういうお客も断っていれば、ただでさえ病院勤務のときより収入が不安定で少ないのに、商売として立ち行かなくなるから止むを得まいと思っている。
そんな時に一人の女子高校生がやって来た。
髪を染めてピアスをつけた子で、着ている私服も肩や臍を露出させた派手なものだった。
豹柄のミニスカートを履いて、太腿を露にしている。
こういう子は学校でも目をつけられていて、異性との交遊関係も派手なものと考えられる。
また、何かあったときにセクハラをされたとかイチャモンをつけられたりしてトラブルになりやすい。
「申し訳ないけど、未成年は保護者と一緒でないと相談に乗れないんだ」
私の断りにその子はいきなり玄関先で土下座した。
「お願いっす。先生さま! そこをなんとかマジお願いっす!」
「いったい何をお願いするの?」
「地球上で唯一先生さましかいないから、あたしの頭良くして。
もう拝むっしょ。この通りだから。してくれたら、もうなんでもするし」
「そういうパターンが一番困るんだよ。親連れて来れば良いじゃないか。
女の子が1人で来て、何でもするからなんて言うの一番やばいんだから」
「あっ、親なんか駄目だし。もう催眠なんか信じてないし。
お金も出してくれないわ。それに超うざいから、口利きたくないから。
もう、さっさと催眠かけて頭良くしてほしいんだから。
お金も3000円持って来てる。ほらこの通り。
それで駄目なら不足分この体で払っても良いし。
あたし良い体してるよ、見るかい?
先に一発やっても全然良いよ」
うわーぁ、なんだこの子! 一番危ないパターンじゃないか。
断ったら目の前で服でも脱ぎそうな勢いだからなるべく面倒を起こしたくない。
こういうのは時短催眠をした後、さっさと帰した方が良い。
私はヒプノフラッシュをかけて一応施術した。
その後で料金を貰って、忘却暗示をかけた。
だが、その子が帰ってから1・2分後に人相の悪い男と一緒に戻って来た。
白いスーツに黒のシャツ、ミラーのサングラスにパンチパーマ。金のネックレスと高級腕時計、まさに絵に描いたようなその筋の人間だ。
「向山先生よぅ。アケミにいったい何したんだよぅ。
ここに入って行くときに確かに持たせた3000円がなくなっていて、しかも30分も中にいた。
あんた、治療を断ってた癖に、何でもするって言った未成年に悪戯したんじゃねえのか?
しかも本人は全然覚えてないから。催眠術で忘れさせたんだろう?
いったいどうしてくれるんだ?!」
そう言うと、ポケットからICレコーダーを取り出してスイッチを入れた。
アケミの声が大きく入っていた。私の声ははっきり聞こえない。
なんでもするとか、一発やっても良いとか、危ない言葉がはっきり録音されている。
どうやって録音されたか分からないが、これはすごい誤解を生む。
男は高級ライターを出してヨウモクに火をつけ1・2回ふかすと、応接用テーブルの上に押し付けて消した。
「先生よぅ、何もあんたを困らせる積りはないんだ。
だけど、こういうのがあちこちに出回ったら困るんじゃないのかい?
催眠術なんてタダでさえいかがわしいことやってるってもっぱらの噂なのに、この録音がコピーされてあちこち出回ったら商売できねえんじゃないのかい?
いやいや、そんな酷いことする積りはねえよ。
先生が誠意を見せてくれたら、こっちも考えるよ。
アケミだってそんな噂が広まれば学校に行けなくなるからなぁ。なぁ、アケミ?」
私は小切手帳を出した。そしてわざと薄い字で3000円と書いた。
「これでどうですか?」
男は字が良く見えないらしくサングラスを外した。そのときフラッシュが光った。
私はこのチャンスを狙っていたのだ。
「動かない。お前は深い催眠に落ちる。だが、体は倒れない」
そのときアケミが玄関の外に飛び出そうとした。