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ヒプノ・フラッシュ
【SF その他小説】

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裏目に出たこと-1



私はどちらかというと不器用な人間で、催眠誘導もやたら時間がかかる。

だから催眠療法の仕事が回ってくると、気が重くなるのが常だった。

ところがこのヒプノフラッシュを使うようになってからは、楽しくて仕方がない。

「向山君、この間のクライアント(患者)は催眠療法30分で終わったんだって?

それも1回で済ませたというじゃないか? 手抜きじゃないのかね?」

心理療法病棟の田所医師が薄い色眼鏡の奥から細い目を光らせた。

私は療法士だが医師ではない。医師の指示に従って動かなければならない。

1回ですませるか、次回も継続するかは医師の判断によらなければならないのだ。

私はついうっかり相手がすっかり治ったように思えたので、次回はもう来なくても良いと告げてしまったのだ。

これは大きな失敗だった。医師の権限を侵してしまったことになるからだ。

それで私はその後は慎重になり、催眠療法のときはたとえ治っていても医師にその後診てもらうように手続きを踏んだ。

だがそれがまた裏目に出て、田所医師の機嫌を損なってしまった。

というのは心理療法というのは、カウンセリングを主体にして色々な方法やアプローチがあるとする。

それでなかなか改善を見られないとき、手段の一つとして催眠療法を行う。

そこから得た結果を参考にしてまた治療やカウンセリングを続けるということなのだ。

だから私の催眠でクライアントが目覚しく回復したということになると医師の面目が丸つぶれになるのだ。

事実ヒプノフラッシュを使って行う治療は患者を瞬時に深い催眠に誘導でき、治療効果も抜群だった。

次々と私のところに送られて来た患者が全快して行くのを見て、田所医師は激怒した。

彼は、私が療法士としての逸脱行為をしたと教授会に訴えた。

要するに私の任務は催眠によって得た患者に関する資料を医師に提供することだが勝手に治療行為までしたということなのだ。

実際は催眠療法では病気の原因が分かった時点で、その原因を取り除く暗示を与えることになっていて、それ自体は逸脱行為でもなんでもないのだ。

だが結果として治療してしまったことが田所医師には不快だったということだ。

 


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