契りタイム-3
「って、やっぱり海棠君もウーロン茶なの。」美紀がビールのジョッキを持ち上げながら言った。
「え?は、はい。」
「で、どう?ミカとの交際、順調?」
「順調じゃないわけないだろ。」ミカがそう言って隣のケンジの背中をばしばし叩いた。「たかだか一か月程度で破局するか。」
「い、痛いんですけど、ミカ先輩。」
「なんだよ『ミカ先輩』って。」久宝が言った。「恋人同士なんだろ?呼び捨てにしたりとかしないのか?海棠。」
「しないよ。先輩なんだから。」ケンジはウーロン茶を一口飲んだ。
「それって、変。」美紀が言った。「ミカに告白されて、つき合い始めて一か月以上経つっていうのに、『先輩』呼ばわりはないでしょ。」
「ですよねー。」久宝が焼き鳥の盛り合わせを運んできてテーブルに置いた。「これ、サービスです。」
「済まないね。」ミカは豚バラの串を取り上げて、一切れ口でむしり取った残りを隣のケンジに手渡した。
「あ、どうも。」ケンジは小さく頭を下げた。
「『あ、どうも』だと?」小泉が眼鏡をトレーナーの裾で拭きながら言った。「やっぱり変だ。どう見ても恋人同士には見えない。」
「そうかよ。」ケンジが豚バラの串に噛みついたまま言った。
「そこんとこ、どうなんすか?ミカ先輩。」
「こいつ、思ったより奥手でねー。」
「奥手?」
「実は海棠君、ミカとは無理して付き合ってるんじゃないの?」美紀が生ビールのジョッキを持ったまま言った。「こんな弾けた性格だし。」
「そ、そんなことありませんよ。」ケンジは慌てて言った。「俺、とっても幸せな気分です。」
「とってつけたように言ってねえか?」久宝が落とした枝豆を拾って口に入れた。
「全然『幸せな気分』には見えないけどな。」堅城が砂ずりの串を取った。
「しかたない。」ミカが大きなため息をついた。「実はな、あたしと海棠は、この後、」
「あーっ!ミカ先輩!」ケンジが大声を出した。
「何だよ。海棠、なに大声出してんだ?」
「それに顔、真っ赤になってるし。」
「ミカ先輩っ!」ケンジはミカに身体を向けて、人差し指を自分の口に当てた。「しーっ、しーっ!」
ミカはウーロン茶のグラスを持ち上げた。「何恥ずかしがってんの?海棠。いいじゃん。別に。」
「ひ、人に言いふらすことじゃないですよっ!」
「言いふらしてないじゃん。ここにいるメンバーなら問題ないでしょ?」
「も、問題ですよっ!」
「何で?だって、誰にも迷惑かけないわけだし。」
「そういう問題じゃありません。」
「もしかして・・・・。」拭き終わった眼鏡をかけ直しながら、小泉が上目遣いでケンジを見た。
ケンジはそわそわして腰をもぞつかせた。
「おまえとミカ先輩、この後二人でいい所に行くんだな?」
「なるほど。」堅城が手を打った。「それは自然な流れだな。」
「素敵な甘い時間を過ごすのね?」美紀が満面の笑顔でそう言って、ジョッキを傾けた。
「その通り!」ミカが大声で言った。
「先輩っ!」ケンジも大声を出した。顔がさらに真っ赤になっていた。
ケンジがミカに、必死で『もう何も言うなオーラ』を出しているにもかかわらず、ミカはそこにいるメンバーに向かってべらべらしゃべり始めた。
「あたしと海棠は去年の12月1日からつき合い始めたけど、まだ身体の関係には至っていない。」
「そうか。だから奥手、って言ったんすね?」
「ま、こいつにもいろいろ思うところがあってね。焦って駒を先に進めるのもどうかと、あたしも思ったし、自然にそういう雰囲気になるのを待ってたわけよ。」
「で、今日がその日だってことなんですね?」堅城が身を乗り出して言った。
「どうなの?海棠。」ミカがケンジに顔を向けた。
「ど、どうって・・・・・。」ケンジはまだ恥ずかしげに身を固くしていた。
「大丈夫よ。あたしたちだって、こんなことであなたたちをからかったりしないから。」美紀が優しく言った。「恋人同士なら、普通でしょ?でも、珍しいよね、こういうケース。」
「そうですよね。」小泉が口を開いた。「男の方が早くそういうコトしたいのに、女性が機が熟すのを待たせる、ってことはよくある話ですけどね。」
「ミカ、よく我慢してるじゃん。」美紀がミカの肩を叩いた。
「あたし、そんな淫乱オンナじゃないから。言っとくけど。」