カノジョの定義-8
くるみさんは目の前にあるグラスをゆっくりストローでグルグルかき混ぜた。
半分ほど残っていたアイスティーは、溶けた氷と二層になっていたけれど、グラスの中身がゆっくり均一の淡い茶色になっていく。
まるで、あたしと陽介が色褪せていくように。
ポツポツ溢れていく涙を拭いとることも出来ずに、あたしはその様を呆然と眺めるだけ。
「あ、誤解しないでね? あたしは恵ちゃんが憎くてそう言ったんじゃないの」
「…………」
「確かに陽介は今は恵ちゃんのこと大切にしてるかもしれない。でも、アイツは根が遊び人だから、この先絶対浮気するよ? そうなった時に悲しむのは、恵ちゃんなのよ。
あたし、恵ちゃんには悲しい思いはして欲しくないの」
浮気という言葉に、ピクッと眉根が歪んだ。
そして込み上げてきた、胸の痛み。
あたしは陽介と付き合う前、優真先輩という大学のゼミの先輩と付き合っていた。
優しくて、あたしのことを大切にしてくれた、自慢の彼氏だった。
でも、その頃のあたしは大好きな人に裸を見られるのが怖いってだけで、なかなか優真先輩に身体を許す度胸がなくて。
その結果、誠実なはずの優真先輩は浮気をしてしまったのだ。
あんなに優しくて真面目そうな優真先輩ですら、裏の顔があってあたしを裏切った。
……じゃあ、相当女慣れをしている陽介だったら?
俯いた視線の先に見えてきたのは、胸元が大胆に開いたワンピースから覗く、白いデコルテ。
服の上からでもはっきりわかるボディラインは、男なら生唾を飲み込みそうなほど綺麗だ。
考えたくないのに、勝手に浮かぶ陽介とくるみさんのセックス。
いつもあたしにしてくれるように、くるみさんを抱いていたの?
優しく、激しく、くるみさんを求めていたの……?
くるみさんとの関係は過去のもの、それは頭じゃわかっている。
でも、激しい嫉妬心はどうしても消えそうになかった。
吐き気が込み上げて、あたしは左手で口元を押さえながらガタッと椅子から立ち上がる。
「恵ちゃん?」
「……ごめんね、トイレ行ってくる」
なんとかそれだけ言ってから、あたしは狭いお店の中をハンカチ一つ握り締めてトイレに駆け込んだ。
とにかくくるみさんの顔は見たくない、と。
一人の空間を求めることで頭がいっぱいだったあたしは、くるみさんの視線が、テーブルの隅に置き去りにされたあたしのスマホを見つめていることに気がつかなった。