カノジョの定義-6
こんなのくるみさんの挑発に過ぎない。そう頭ではわかっているつもりだった。
おそらくくるみさんは陽介を好きだから、カノジョであるあたしの存在が目障りで、わざと逆撫でするようなことばかり言ってるんだって。
……でも。
カノジョがいても、陽介はくるみさんと連絡をとって身体の関係を続けていた過去がある。
「俺を信じて」って言っていた陽介。あの時の様子に嘘はなさそうだった。
でも、あたしが陽介と過ごして来た時間は、くるみさんのそれには遠く及ばない。
その証拠に、あたしは陽介のことを知らなすぎていて、くるみさんは陽介のことをよく理解していた。
不安がどんどん押し寄せて、目から涙が溢れそうになる。
泣くな、あたし。ここで泣いたら負けちゃうじゃない。
なんとかそれを飲み込んで、平静を保とうとするあたしに、くるみさんはさらに口を開いた。
「陽介のめんどくさがりな気持ち、よくわかるの。あたしも同類だから」
「同類……」
「そ。まあ、あたしもそれなりにいろんな男と付き合ってきたんだけど、カノジョの定義って言うのかな。カノジョだからイベントは一緒にとか、カノジョだから毎日連絡を取り合うとか、恋人が当たり前にすることが面倒に思うのよね」
あたしは、陽介に会えない日は必ず電話して声を聞いていた。
好きだから、顔が見れない日はせめて声だけでも聞きたくて。でも、それすら面倒に思うのかな。
「まあ、恋人としての義務ってやつがウザいんだよね。陽介もあたしと同じ考えでさ。束縛もなしに自由に遊んで、エッチしたい時にエッチしてればいいって。だからあたしは陽介と長く続いたんだと思う。面白いよね、歴代付き合ってきたカノジョとは長続きしないくせに、身体だけって割り切ってるあたしとの関係が一番長続きしてるんだから」
くるみさんは、そう言って髪の毛をくるくる指に巻き付ける。
サラサラなそれは、巻いてるそばからパラリとこぼれ、そこから甘ったるい香りが微かにあたしの鼻をかすめた。
あたしとは違うその香りがなんだか不快でたまらない。
頭がクラクラして、足元がフワフワ覚束なくなる。
視界もグニャリと歪む中でくるみさんは
「あたしが一番陽介のことをわかってるの」
と、少し鋭い声で確かにそう言った。