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杉山梢の独り言
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1対2のお付き合い-1

その手紙を持って竹中に会いに行った松野はしょんぼりして帰って来ました。

松野緑は2つのことを報告してくれました。1つは代筆を見破られたこと。

もう1つは竹中が私と友達としてならいつでも付き合うと言ってくれたこと。

私は『やった』と思いました。

ところが松野は私にこう言いました。

「好きでもなんでもない竹中と友達付き合いしても、周囲から恋人同士と間違えられてしまうでしょう?

だから私と一緒にあいつと友達になれば良い。そうすれば誤解されないんじゃない?」

だけど竹中が松野を友達として受け入れる訳がないと思うけど。

「だから、私中学時代に戻るのよ。

髪を切ってジーンズ履いてイメチェンすればあいつも私のこと見直すと思うんだ」

松野は、竹中のことが好きだと告白しているようなものでした。

私はそれに気づかない振りをして、彼女の新しいプランに乗ってやることにしました。

事実友達付き合いするとは言っても、恋人同士に進展させる自信はなかったし、1対1の付き合いというのはやはり苦手意識があったからです。

それに竹中は自分を選ぶと信じたかったからです。

次の日松野は見事変身して来ました。同級生たちが本人だと気づかなかったくらいに。

私は楠木実に頼んで音楽室に竹中を呼び出しました。

松野はピアノの前で言いました。

「僕は新しいキャラで挑戦してみる。

それで竹中が僕を友達として受け入れたらピアノを弾いてみせるんだよ。

あいつは何度も僕がピアノを弾いているところを聞いているから、僕だと気づくのさ。

そして友達として受け入れたことを口惜しがるんだ。

騙されたとわかってびっくりした時の顔を見るのが今から楽しみだね」

私は松野が二重人格者ではないかと思いました。

というのは演技の勉強をしている訳ではないのに、その変貌ぶりがあまりにも見事だったからです。

たった一度の義兄からの性的虐待でも多重人格になることがあるのか、それはよくわかりませんが、それだけ見事だったのです。

でも今回のことで松野は自分の思いに気づいたのだと思いました。

ただ、竹中に思い知らせるために髪を切ったりする訳がないからです。

彼女は自分が竹中が好きなので、私に取られたくないと思ったのです。

でも私は竹中のことを好きだとは言ってないので、彼女を正面から拒否できませんでした。

音楽室に竹中が現れたとき、私は言いました。

竹中、私を振ったんだって? で、友達なら良いってかい?

「ああ、そうよ。俺ちょうど女の友達欲しかったんだよ。

そこにうまい具合にお前が飛び込んで来たからラッキーってなもんだよ」

私は大きく頷いてから松野緑を指差して言いました。

だけどあんたと2人きりだと恋人同士のデイトみたいになるからさ。

私の友達とセットで友達付き合いしても良い? 

で、この人どう? あんた、女にはうるさいからさ。一応断っておこうと思って。

竹中はちらりと松野を見ました。松野は軽く片手を上げて挨拶をしました。

それがきっと気に入ったのでしょう。竹中は言いました。

「おう、願ったり叶ったりだ。

一遍に2人も女の友達ができれば、虫除けにもなるし情報も入ってくるし。OK。OK。

どうだ、友達結成記念に3人で映画でも見に行くか?

でもって帰りにハンバーガーでも食うってのはどうだ。もち、費用は自分持ちで」

松野は自分の罠に見事竹中が嵌ったので喜びました。

私も、その案に賛成と言う意味で歓声をあげました。

すると竹中は松野に向かって言ったのです。

「ところで、そっちのお前。ピアノの前に座ってるけど、なんか弾けるのか?

 ちょっとやってみせろよ」

松野緑はニヤッと笑うと両手を大袈裟に上げて構えました。

きっと彼女は自分が曲を弾きだすと、竹中は気づくだろうと思っていたのです。

彼女はいつも弾いている曲を選んで弾きました。

竹中の見てるところでも弾いていた曲ですから、絶対自分が松野だと気づくはずだと言ってました。

そうすれば、自分がまんまと騙されたことが分かり、口惜しがるだろうと言う訳です。

ところが曲が弾き終わったときに竹中は勢いよく拍手して言ったのです。

「すごいぜ! お前天才だよ。なんかこう……胸を打つ演奏だった。

俺の知ってる奴もピアノが得意らしかったが、そいつよりもずっとうまかった。

なんか心の奥に染みて来たものな、うん」

竹中は気づいていなかったのです。

それよりも彼は松野緑のピアノを思い出して、それより上手だと言ったのです。

彼が知っているピアノが得意な人間と言えば、松野緑くらいしかいなかったのですから。

同じ人間が弾いているのに、今の方がずっとうまいというのはどういうことでしょうか?

つまり竹中は主観的に聞いたのです。

そしてピアノの演奏の上手下手など見破る耳などはもちろんなかったのです。

彼はただ自分の思い込みでそんな風に聞いたのだと思います。

そのとき松野が泣き出しました。

1つはいつも自分をけなしてばかりいる竹中に褒められたのが嬉しかったのでしょう。

そして以前の自分がそんなに竹中に低く評価されていたことに口惜しい思いをしたのもあったのかもしれません。

もちろん竹中は驚きました。

その後種明かしをしました。つまり自分は松野緑本人だと竹中に告げたのです。

竹中は松野が思い切って女の命とも言うべき髪を切ったことに潔さを感じたのか、そのまま歓迎しました。

そして男女1対2の清い交際?が続いたのです。

 


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