☆☆☆☆☆-5
湊が色々とやってくれていたみたい。
目を開けた時、温かい何かに包まれていた。
「あ…」
「大丈夫かよマジで」
目の前の整った顔が笑みを零す。
「湊…」
陽向は湊にぎゅっとしがみついて首筋に唇を寄せた。
湊が頭を撫でてくれる。
離れたくなくて、腕に更に力を込める。
「なーに」
「なんでもないよ」
湊はフッと笑い、黙って優しく抱き締めてくれた。
安堵感に包まれ、陽向は幸せな眠りに落ちた。
翌日目が覚めた時、陽向は激しい腹痛に襲われて1人で悶えていた。
ソワソワしていると、湊が眠そうな目で陽向を見つめた。
「んっ…陽向…。どーした?」
「お腹…痛い…」
「変なもんでも食ったか?」
「わかんない。飲み過ぎかなぁ…」
陽向はタオルケットを剥ぎ、驚愕した。
綺麗な白いシーツに血が垂れている。
どこか怪我でもしたのだろうか。
「血!」
「は?」
血の出どころを確認して、陽向は再び驚愕した後、激しい羞恥に襲われた。
「ありゃー。でもよかったわ」
湊はクスクス笑い、陽向にティッシュを渡した。
顔を真っ赤にしてそれを受け取る。
「み…見ないでっ!」
陽向はそのままトイレに駆け込み、大きなため息をついた。
トイレから出て、リビングのドアから湊の姿をコッソリ覗く。
「こっち来いよ」
湊はソファーに座り、背を向けたままそう言った。
黙って湊のもとへ行く。
「ごめん…シーツ……」
「高かったのになー」
「いくら」
「2万」
「えっ!!!!!!そんな高いの…あれ…」
どう見ても金持ちそうなこのマンション…。
リアルか、これは。
そういえば、ものすごく肌触りのいいシーツだったな…。
陽向は顔面蒼白で湊を見た。
「何その顔」
湊は真面目な顔をして陽向の腕を引っ張り、ソファーに押し倒した。
「…どーしてくれんの?」
「……」
やばい。
本気のやつかもしれない。
心臓が早鐘を打つ。
「ご…ごめん…なさい……」
半べそで謝ると、湊はニッと右の口角を上げ、「うーそ」と笑った。
「もうっ!ばかっ!ありえない!本気にしたじゃん!」
陽向は湊の腕をバシバシ叩いて発狂した。
「あまりにもビビってっから面白くなっちゃって…」
湊はケラケラ笑いながら「つーか反則」と言って陽向のほっぺたを親指で撫でた。
「なにが」
「泣きそうな顔が。…もっかいやって」
「やらないっ!」
「ははっ。ひなちゃん可愛い…」
「かわいくない!」
湊は暴れる陽向を抱き起こしておでこにキスをした。
ムスッとした顔で湊を見る。
「ばか」
「ばかじゃねーし」
「アホ」
「アホでもねーし」
「インゲン食べれないくせに」
「関係ねーだろそれ」
「ホントはいくらなの」
「知りたい?」
陽向は「うん」と頷いた。
「2千円」
「はぁぁぁぁ……」
声と共にため息が飛び出す。
ビビって損した…。
「よかった…」
「なんでこんな冗談本気にするかねー」
「だって、ホントにそれくらいしそーなんだもん。…湊、お金持ちでしょ」
「そーでもねーよ」
「うそだ。学生のくせにこんないいとこ住んでるし。親なにやってるの?」
「知りたい?」
陽向は興味津々といった目で湊を見て「知りたい」と言った。
「父ちゃんは社長。母ちゃんはスーパーでパートしてる」
「しゃ…社長?!」
「そんなデカい会社じゃねーよ」
だからか…。
だからお金持ちなのか…。
「金の話とかあんましたくねーんだけど」
「…ごめん」
湊は黙った陽向の頭をポンっと叩いて「この話はおしまい」と言った。
その夜、湊は本当にフルコースを作ってくれた。
生ハムのサラダやチキンのトマト煮、その他にも手のこんだものをたくさん作ってくれた。
どれもこれも美味しすぎて、驚いた。
「こんな料理上手だったなんて知らなかったよー!」
「美味いだろ?ダテにキッチンやってねーからな」
陽向は左手に持ったフォークに刺さったチキンを口にした。
「おいひー」
「店開けるかな」
「あ、調子乗った」
「うるせ」
湊はケタケタ笑う陽向の顔を見て笑った。
トマトソースが唇の横についている。
「お子ちゃまか、お前は」
「へ?」
湊は「ソースついてる」と、キョトンとした陽向の唇をティッシュで拭った。
「あ…ついてた?」
「世話の焼ける子でちゅねー」
「バカにしないでよ!」
湊にはいつも子供扱いされる。
そりゃ、背も低ければ顔も童顔だし、声だってどちらかと言えばセクシーではない。
胸だって小さいし、全体的に幼児体系。
はぁ…悲しい。
もっと色気のある人になりたいな、と思う。
「なんで湊はいつもあたしのこと子供扱いするの」
「だってガキみてーなんだもん、お前」
「湊は色っぽい女の人の方が好き?」
「なんだよいきなり」
「だってあたし、チビだし童顔だしどこもセクシーじゃないもん…。男はセクシーな人の方が好きでしょ?」
陽向の問いに湊は笑い、少し間を空けて答えた。
「で?」
「で?ってなによ」
「そーだよっつったら、お前はそーなれんの?」
「…頑張る」
「いやいや、無理っしょ」
湊はゲラゲラ笑って「あのね」と言った。
「人それぞれタイプってのがあんだろ」
「……」
「色気とか、そーゆーんじゃなくて、俺は無邪気で素直で子供みたいなお前が好きなんだよ。なんつーか…守ってやりたくなんだよな」
湊は「こんなこと言わせんじゃねーよ」と俯いてはにかんだ。
陽向は湊の隣に座り、ぎゅっと抱きしめた。
「甘えん坊だねー、ひな坊は」と言って湊は陽向の頭を撫でた。
「またバカにした!」
キッと湊を睨みつけると、おでこにキスをされた。
「俺が好きなのは、風間陽向なの。他の誰でもねーよ」
フッと微笑んだ湊は少し恥ずかしそうにした後、チキンを口に放り込んだ。