第四話-8
その言葉にポカンとするマルと桜さん。当然の反応だよな。
「冗談を言っているわけじゃないんだ」
俺は今まで起きた出来事をかいつまんで話した。個人名は伏せたけど。
「もしそれが本当なら、先輩はマルの性欲が『愛情』によって奪われたって言いたいんですか?」
「俺の推測だけどな。マルに他の女の子のことを考えてほしくなくて、その結果……ってわけだ」
「イスワリの答えによっては、マルとやらが性欲を取り戻すかもしれんってわけだなー」
押し黙る桜さん。
さっきも思ったことだが、桜さんはマルのことが好きなはずだ。というか、そうでなければ振り出しに戻ってしまう。
「さ、桜……自分のこと、好きなわけないっすよね……?」
「……ふぅ」
桜さんはしばらくしてから息をついた。
「どうして気付いてないかなぁ……」
呟くように言う桜さん。
「好きでもないのに、同じ学園に通うと思うのか?貴重な昼休みを、わざわざ『ただの幼馴染み』のために使うと思うのか?」
桜さんは真っ直ぐマルの瞳を見据え、
「好きに決まっているだろう」
自分の気持ちを告白した。
「ふぇ?」
変な声をあげるマル。幼馴染みからのまさかの告白に、頭がついていけてないのだろう。
「マルとやら、意中の相手はいるのかー?」
姉ちゃんの問いに、ただ首を左右に振るマル。
「なら付き合ってみたらどうだ?ふたりがよければ、だけどなー」
「そうだぜ。案外付き合ったら、マルも桜さんのこと好きになるかもしれないしな」
マルは俺たちの提案に、ただ頷いた。
「桜さんは?それでいいの?」
「や、ヤブサカではない……」
嬉しそうに言う桜さん。
「よーし。晴れて恋人同士になったわけだし、誓いの口づけをしないとなー」
「おっ、やっちゃえやっちゃえ」
姉ちゃんの提案に乗っかる俺。
「わ、私は、マルがどうしてもと言うなら……」
「え、いや、どうしたもんすかね……口づけって、キスのことっすよね?」
「当然だろ」
「キスしたいって思わないんすよね……」
「なっ!?」
マルの言葉にショックを受けたのか、桜さんは途端に暗い表情になった。
だがそれも当然だ。マルは性欲を失っているんだからな。女の子の考えるキスは違うのかもしれないが、男にとっては前戯も同然なのだ。