第三話-2
あいつとは単に……単に、なんだっけ?
「ともかくありがとう。あ、それと一応これ」
俺は胸ポケットから名刺を取り出し、日向さんに手渡した。
「浮気調査の依頼とか、待ってるよ」
「ダーリンは浮気なんてしませ〜ん」
***
放課後。
紅葉が調べてくれた一条楓の住所へ行くと、女子生徒が一軒家のインターホンに向かって何かを話していた。
「出てきてくれないと、ボク困っちゃうな」
インターホン越しに家の者と話しているのだろうけど、相手の声は聞き取れない。
「そうしないと、ボクは……を、殺さなきゃいけない」
「っ……!?」
今あの女子生徒、物騒なことを口走らなかったか!?
俺の位置からじゃ顔は見えない。誰なんだあの娘は。
「君がどうしてもって言うなら……あっ」
女子生徒が一瞬こちらを振り返り、目があう。どうして振り返ったのかはわからない。なんとなく振り返っただけだろう。
だけどその顔に、見覚えがあった。
「雲木……?」
2日前にパソコン室で出会った、付属3年のパソコン部部長の女の子。でも、あの時と雰囲気が違うような……。
「……今日はそろそろ退散するよ。それじゃあまた、一条先輩」
雲木は相手に、一条先輩と呼んだ相手にそう言い、こちらへ歩いてきた。
「奇遇ですね、神代先輩。一条先輩にプロポーズでもしにきたんですか?」
「え、いや……」
雲木はさっき、誰かを殺すと言っていた。本気で言っているとは思いたくないが、冗談のようには思えない。
「そうそう、昨日の『本棟告白』の動画が、ようつべにアップされてましたよ?」
ど、動画?ようつべ?何のことだ?
「雲木……ようつべってのは、お前が見た超能力に関係しているのか?」
「…………」
雲木はなぜか目をぱちくりとさせ、やがて、
「ぷ、ふふ、ふふふ……」
腹を抱えて笑いだした。何がおかしいというんだ。
「雲木、俺は真面目に聞いているんだ」
「ふ、ちょ、これ以上、笑わせないで、ぷふ……」
ようつべとやらが超能力の名前か何かなら、その力で視力やヘソを奪ったのだろう。
「お前もようつべで、何か奪われたのか?」
「ようつべで、くく、く、何か、奪われた、のかぷふふっ」
雲木は一向に笑うのを止めようとしない。