第一話-9
「では先輩は琴梨さん……妹さんにもっと甘えてほしかったんですね?」
先輩は琴梨さんの顔色を横目で窺い、
「そうだ」
少し恥ずかしそうにそう答えた。
「なるほど」
もしも本当に超能力や魔法があるのなら、この事件はいとも容易く解決できる。あとは先輩の気持ち次第なんだけど……。
「何がなるほどなんだ?今の質問は、在花の失明と関係があるとでもいうのか?」
「もちろんですよ」
俺の推理はこうだ。
シスコンである先輩は、妹の琴梨さんに甘えてきてほしいと願っていた。
そんな時に超能力者、あるいは魔法使いに出会った先輩は、その人物にこうお願いしたんだ。
「妹の目が見えなくなりますように」と。
そうすれば琴梨さんは、同じ学園に通っているお姉さんである先輩を頼らざるを得なくなる。
つまり琴梨さんが視力を失った原因は、『先輩がそれを望んだから』なのだ。
「…………」
俺の推理を披露すると、先輩は心当たりがあるのかうつむいてしまった。
「……もし超能力なんてものがあったとすれば、なるほどたしかに犯人は私かもしれないな」
「お、お姉ちゃん……?」
「すまない、在花。こいつの言うとおりだ。私はお前に甘えてほしくて、お前の目が見えなくなればいいと考えたことがあるんだ」
「そんな……」
「だが神代よ。私は超能力者などという胡散臭いやつにお願いしたわけではないぞ。ただ『そう考えたことがあるだけ』だ」
「それでいいんです。相手が超能力者なら、先輩が考えたことを読まれた可能性もありますからね」
あくまで超能力や魔法があると仮定して、残る問題は琴梨さんの視力がどうすれば元に戻るかだ。
「簡単なことです。先輩がそれを望めばいい」
「まさに今、それを望んでいるのだがな」
「心のどこかで『視力が回復したら、また前みたいな関係に戻るんじゃないか』って思ってませんか?」
「……ああ」
先輩は素直にそれを認めた。
「俺の話は以上です」
「ふん……おもしろい話だった。すがるものがない以上、なんとか努力してみるよ」
***
それからわずか三日後、琴梨さんが一人で部室を訪ねてきた。
「先輩方のおかげで、無事に視力を取り戻せました!ありがとうございます!」
「おめでとう。それで、結局原因はなんだったの?」
「恐らく先輩の推理どおりだったのだと思います」