高橋との出会い-4
翌日から、麻理は婦人服フロアに立たなくなった。
本人の希望で別の部署に異動させた──と高橋は言っていた。
裁断ミスの件は、高橋が古くからの知り合いだという他社のバイヤーに頼んで、同じ商品を海外のショップから直接取り寄せてくれたおかげで、大きな問題にならずにすんだ。
俺の起こした最大の不祥事は、こうして高橋の力で全て揉み消されたのだった。
問題があっさりおさまってしまったことを内田たちは残念がっていたが、Tデパートならばまたすぐに新たなトラブルが起きるに違いないと期待しているようだった。
俺は、二度と同じようなミスが起きないよう、Tデパート側とリメイクミシン側双方に万全のチェック体制を整えた。
これにも高橋は快く協力してくれた。
恐らくもうトラブルは起きないであろうし、もし仮に起きたとしても高橋が支配人である以上、話し合いがこじれることはないだろうと思えた。
実際それ以来高橋は、本当によく俺に目をかけてくれるようになった。
店回りの時に会えば必ず声をかけてくれたし、夜は頻繁に飲みに誘われるようになった。
気楽な居酒屋の時もあったし、今まで俺が行ったことがないような高級な料亭や、会員制のバーに連れて行かれることもあった。
高橋は俺の話を聞くのが楽しいと言い、他人が聞けば軽蔑するであろう俺のえげつない女性遍歴を、興味深げに聞いた。
かつてこれほどまで他人に受け入れられたことがなかった俺は、戸惑いながらもだんだんと高橋に自分をさらけ出すようになっていった。
他人との関係を「心地いい」と感じたのは、生まれて初めての経験だった。
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女嫌いの俺と違って、高橋は女にもセックスにも貪欲だった。
結婚はしているらしかったが、飲めば必ず女を欲しがった。
そして、ごく当たり前のような流れで、その女を確保するのが俺の役目ということになった。
「△△のVIPルーム抑えたさかい、川瀬くん適当な女見繕ってや」
高橋の言うVIPルームとは、飲み屋の中にありながら実質何をやっても構わないという個室で、そういうことが出来る店を、高橋はいくつか知っていた。
正直、俺自身女はどうでもよかったが、俺が高橋の役に立てることといえばそれくらいしかなかったから、俺は精一杯努力して高橋が好きそうな女を日頃からキープしておくように努めた。
高橋は、ノリのいい軽い女より、理知的で堅そうな女を好む。
ピンサロやセクキャバにいるようなプロの女は初めから興味がないらしかった。
あらかじめ取引先で目をつけておいた女を電話で呼び出すこともあったし、街で飲んでいる女に声をかけることもあった。
女は一人でも三人でも構わなかった。
個室に連れ込み、酒を飲まし、その場でセックスに及ぶ。
プレイに関しても、高橋はアブノーマルでハードなものが好きだった。
女と二人きりになるより、一人の女を二人がかりで輪姦(まわ)したり、複数の女と乱交のように入り乱れるセックスを好んだ。
初めは嫌がっている女も、俺たちが二人ががりで身体を弄ってやれば、結局は皆ひいひいとよがり狂って喜ぶ。
どんなに真面目そうな女でも、じっくりと時間をかければ必ず堕ちた。
俺はそれまで、セックスを楽しいなどと感じたことは一度もなかったが、高橋とこういう遊び方をするようになって、それを単純に面白いと感じるようになっていた。
俺の中で「罪悪」の象徴でしかなかったセックスが、高橋と出会って「娯楽」だと思えるようになったのだ。
長年苦しめられてきた「性」という呪縛から、生まれて初めて解き放たれた──この頃の俺はそんなふうに思っていた。
高橋という存在がなければ、女嫌いの俺がわざわざ自分から女に近寄ることは、二度となかったかもしれない。
この時既に、人生の歯車が大きく狂い始めていることなど、俺は全く気付いていなかったのだ。