秘密の買い物-1
佐和子はショッピングセンター内を歩きながら、高い天井に吊ってある売り場の案内板に目をやった。
ここは郊外にある大型スーパーである。
食品や衣料品から書籍まで、広大な面積の売り場に、この都市の住人の日常生活のほとんどを賄う品揃えがある。
当然、誰もが日常生活のなかで体調を崩すこともあろう。
佐和子は巨大な柱の向こうの「くすり」と書かれた一角に向け歩を進めた。今の佐和子はまさに薬局を必要としていた。
佐和子は32歳で幼稚園に通う子どもがいる。
かつては化粧品メーカーに勤めていたが結婚して退職した。
結婚して間もなく娘が生まれた。
その娘も幼稚園に通うようになり昼間は自分の時間が持てるようになった。
自分の時間は好きなことをできる自由な時間でもあったが、一方で家族にもあまり言いたくない自分の問題を解決する時間でもあった。
佐和子は買い物かごを左手に持ち替え、右手で自分の下腹部を触った。
目立たないようにシルエットの出ない緩やかなスカートを履いてきたが、触れば下腹部が張っていることは明らかだった。
撫で回してみれば、スカートの下で下腹部が丸く膨らみを強調している。
「かなり張っているわ。…出さなきゃ」
佐和子は頭の中で日数を数え、今日で自分の便秘が6日目になることを確認した。
もともと佐和子は便秘症ではなかった。
周りの友人からは、中学高校の頃からあるいは就職してからと、大人になるにしたがい便秘で悩む話が多く聞かれるようになっていったが、佐和子は毎日とはいかないまでも2日に1度は出していた。
その体質が変わってしまったのは、娘の出産後からであった。
佐和子はしゃがんで、薬の商品棚の最下段に置いてある浣腸を見比べることにした。
しゃがむと下腹部が苦しく自分が便秘中であることを実感させられた。
浣腸は各種置いてあり、選ぶことができた。
個数の多いパッケージを選べば相対的にお買い得だった。
佐和子は主婦らしく値段との兼ね合いを勘案していた。
まとめ買いの大きなパッケージはレジで自分が常習的に浣腸を使っていることを明らかにしてしまうことだった。
しかし、バラ売りを買うと結局、何度も買いに来ることになる。
佐和子は思い切って大きなパッケージをつかみ取ると買い物かごに入れた。
なんとなくその瞬間を誰かから見られているような気もしたが、気にしないように気持ちを前向きに保ち立ち上がった。
娘を出産して以来何年も浣腸のお世話になってきたが、それでも買うときには少し勇気が要る。
それでも、便秘薬はいつ効いてくるか読めないので幼い子の面倒を見る主婦には不便だったし、何より浣腸はあっという間に楽になれる良さがあるので重宝していた。