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庭屋の憂鬱
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ドジ寛の訪問-2

 紅葉は現在(いま)国交省からの出向役人として春風市の開発課長として働いている。市が発注した入札情報を調べる事など朝飯前の事である。

 椿は早速紅葉に電話した。

 新道の草刈工事の落札情報が直ぐにファックスされてきた。全て公開されている情報であるから、紅葉がこの手の情報を涼風園に教える事になんら問題は無い。問題はファックスの中身であった。市との契約額はきっちり百万円。それも随分と以前に契約が交わされている。寛太は今までほったらかしにしていたのだ。

 春風市から早く工事を完了するようにきつく言われたに違いない。

「あきれた。寛太の奴、半分も抜いているよ。それに草刈は道路脇だけじゃなくて、春風川の河原の草刈も含んでいるじゃないか。危ない、危ない。危うく引っ掛かるところだったよ」

「契約書は私が取りに行って来るからね。そうと解れば河原の分まできちんと払わせるさ」

 そう言うと、椿は事務所を飛び出して行った。元々涼風園に居た頃から椿には頭の上がらなかった寛太だ、椿には逆らえない。何とか誤魔化されずに済みそうである。

「師匠筋を誤魔化そうなんて、なんて野郎だ。寛太の奴、性根は全然変わってないな。陸さん、あいつにはくれぐれも気をつけてくださいよ」

 竜が吐き捨てるように言った。



 寛太の会社が短期間の間に急成長した裏には訳があった。

「低入」と「手抜き工事」である。

「低入」とは最低入札、それも常識外れの安い金額で落札する事。他が決して提示しない安い金額で入札し、その金額で儲けを出すために「手抜き工事」をする、その繰り返しで成長してきたのだ。

 手口は簡単である。役所が現場の検査に来ないで写真提出で済ませるのをいいことに、寛太は写真を撮るところだけ丁寧に草を刈り、後は雑に草を刈るか、全く手を着けずに知らん顔して完了届けを出すのである。どんなに安く工事を請けても、寛太はこの手口で儲けを確保し、会社を大きくしてきたのである。竜はその事をよく知っていた。だから最初から寛太を信用しなかったのである。

 程なく、椿が戻ってきた。椿の手には寛太と交わした契約書が握られている。椿が契約書ヒラヒラさせながらニヤリと笑った。

「あと三十万ふんだくってやったよ。河原の除草の事言ったら、青くなっていた。あいつ、最初の五十万で、河原の除草まで涼風(うち)園に押し付けるつもりだったんだよ。セコイったらありゃしない」

 さすが椿である。どうやらこれで騙されずに済みそうである。しかし楽ではない。道路除草だけの筈が、河原の除草まで加わってしまった。両方を一週間で終わらすのは結構骨である。しかし寛太との契約が済んだ今、やるしかなかった。


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