VS桃子-1
石澤の部屋の前でトレイを片手で持ち直し、コンコンと白いドアをノックする。
するとドア越しに弱々しい声が、
「はーい……」
と聞こえて来たので、俺はそっとドアを開けた。
「……大丈夫か?」
俺の声に石澤はハッと目を見開き、ガバッとベッドから身体を起こしたが、頭痛がするのか、すぐさま顔を苦しそうに歪めた。
「あー、無理すんな。
横になってろ」
開け放したドアをそのままに、急いでトレイをベッドの脇にあるガラステーブルに置くと、俺は慌てて石澤を制した。
昨日も顔を合わせていたはずなのに、ずいぶん長い間会っていないような気分だった。
枕元にある体温計をチラッと見ると、38.4と表示されている。
やはり、かなりキツいんだろう。
「熱あるときってなぜかいくらでも寝れるんだよな」
俺はベッドの端の方に控え目に座って石澤の顔をマジマジと見た。
真っ赤な顔に、カサついた唇、荒い息、おでこに貼り付けられた冷却シートがその辛さを物語っていた。
途端になぜか涙ぐんでしまいそうになった。
自分でもよくわからない、こみ上げてくる想いが一気に溢れて、それを彼女にぶつけたくなる。
でも、そんなのはやっぱりガラじゃなくて、涙ぐんでいるのを気付かれないように部屋を見渡した。
整然とした結構広い部屋は、物があまり置かれていなくて殺風景だった。
部屋の隅の勉強机は、教科書もノートも開きっぱなしだし、机の脇には漫画本が積み重ねられて今にも崩れ落ちそうだった。
カーテンは女らしさのかけらもない無地の青で、テレビやコンポなどはガラステーブルを挟んだ壁際のメタルラックに無理矢理収められていて、ベッドに寝ながらテレビを観れるようになっていた。
彼女がどんな風に部屋で過ごしているのか想像しやすくて、それが妙に可笑しかった。
「……ホントに来てくれたんだ」
「ここ来るまでは沙織も倫平も、歩仁内や本間までいたんだぞ」
俺の言葉に、石澤は目を丸くした。
歩仁内と本間までって言うのが意外だったのだろう。
「まあ、みんな俺に気を利かせて先に帰ったけど」
俺がニヤニヤすると、石澤は少し口を尖らせて“もう”と小さく呟いた。