VS桃子-6
以前、石澤に“弁当を作ってくれ”と、冗談混じりに言ったことがあったが、正直あてにもしてなかったし、俺自身もそんな冗談を忘れていた。
だから、思いもよらない彼女からの手作り弁当は、とても嬉しかった。
なんか、ドラマで見るような展開に少しだけ体がむずがゆくなったけど。
「マジで、作ってくれたんだな」
俺はいそいそと非常階段の一段下がった所に移動し、どっかりと座り込んだ。
隣に石澤もトンと腰を下ろす。
「クッキーも入ってるから」
石澤に言われ、紙袋の中を覗き込むと、ラッピングされたピンクの包みが入っているのが見えた。
「なんか、病み上がりなのにわりいな」
俺はクッキーの包みを手に取り、まじまじ見てから石澤に微笑みかけた。
ここまでしてくれたことが、純粋に嬉しかった。
だが、彼女の表情はあまり晴れやかでない。
口を尖らせ、少しムスッとしているのが気になった。
不思議に思った俺は、
「何イラついてんだよ。生理前か?」
と、石澤の顔を覗き込んだ。
すると彼女はものすごい形相で俺を睨みつけ、ダンッと俺の足を思いっきり踏んづけてきた。
郁美の言うとおり、俺のこういう所がデリカシーがないんだなと思うと、自然と苦笑いが浮かんできた。
「わりい、冗談だよ」
俺は慌てて彼女を宥めながら、小さく肩をすくめた。