VS桃子-4
あと少しって言う所だったのに、不意に視線を感じた俺は、ハッと顔を上げドアの方を振り返った。
「…………」
ドアの方向に目をやると、石澤母がほんの少し開いていたドアの隙間から覗いていて、俺とバッチリ目が合ってしまった。
さっき、ドアをちゃんと閉めなかったんだ……。
すぐさま彼女はサッとドアから離れたが、残された気まずさだけは俺から離れることはなかった。
「……どうしたの?」
何も気付いていない石澤が、ゆっくり目を開けて俺を見る。
目が合った時の石澤母の顔を思い出すと、今さらさっきの続きという気分には到底なれず、
「ま、病人相手にからかうのも大人気ないよな」
と、体を起こして、わざとらしく咳払いなんかしてごまかした。
多分、今の俺は石澤より顔が赤いと思う。
もう、一刻も早くこの場から逃げ出したかった。
「俺……そろそろ帰るよ。
沙織のノートはどこにあるんだ?」
「あ、う、うん、そこの机の上に置いてる……」
なんとなく彼女も彼女で何かを感じとったらしく、変にどもりながらそう言った。
石澤母のせいで、微妙な雰囲気になってしまった俺は力なく立ち上がった。
石澤の勉強机に置いてあった沙織のノートを無造作にカバンにしまい込み、
「じゃあ、しっかり休めよ」
と、力無く手を上げて部屋を出た。
最後の最後でやっちまった……。
部屋のドアをそっと閉め、俯いて大きくため息をつく。
その時ふと、ドアのわきにポツンと小さなトレイが置かれていることに気付いた。
見れば、トレイの上には涼しげなガラスの器が二つ置かれていて、熟して甘そうな桃が食べやすい大きさにカットされて、盛られていた。
それを見た瞬間、急に恥ずかしさといたたまれなさがこみ上げてきて、俺はその場で頭を抱えながらしゃがみ込んだ。