選択-2
「8年前と何も変わってねぇのな」
ゼインは男が座っている瓦礫の下まで来ると、男を見上げた。
男はゆっくりとぎこちなく立ち上がり、瓦礫を降りて来る。
「おかえりなさい。ゼロ」
相変わらず微妙にずれた応えを返した男に、ゼインは少し息を吐いた。
「ただいま」
この男との会話が成立しないのはいつもの事だ。
ゼインはまともな会話を諦めて、今にも転げ落ちそうな足取りの男に手を差し出す。
不自然な動きでゼインの手を握った男は、ゼインに引かれるまま地面に降り立った。
「……耳と尻尾が在るように見えるのは、目の錯覚ですか?」
ゼインを間近に見た男は、顔の上半分を覆っている仮面の下で目を瞬く。
「錯覚じゃねぇよ。最近、出してると楽な事に気づいたんだ」
男の手が伸びてゼインの耳に触れ、ゼインはピッピッと耳を動かして見せた。
「君は本当に素晴らしいですね」
魔物の力を吸収した上に、それに呑まれる事なく使いこなしている。
「……あんたの『器』として……だろ?」
ゼインの言葉に、男の口元がぐにゃりと歪んだ。
これでも微笑んでいるつもりなのだ、この男は。
他の表情は作れるクセに笑顔だけは下手……というか、出来ない。
(ポロと一緒だな)
ゼインは目を閉じて下りてきた男の手に頬を寄せた。
「……良いよ。あんたにやるよ……この身体」
ピクリと動いた男の手に、ゼインは自分の手を重ねる。
「……やるよ……好きにすれば良い……」
開いたゼインの蒼い目は、真っ直ぐに男の乳白色の目を見つめた。
視線を合わせたままゆっくりと顔を近づけた男は、ゼインと唇を重ね、ゼインはそれを抵抗せずに受け入れる。
そのゼインの身体がビクンと跳ねて、ずるりと崩れた。
男はぐったりした小さな身体を優しく抱き止める。
「君は……私です」
ゼインの背中から突き出た血まみれの触手が、愛おしそうにゼインに絡む。
地面からもボコリボコリと触手が現れて、2人の身体を隠すように包んでいった。
眩しい太陽の光が顔に当たり、それから逃げるようにカリーはもぞもぞと頭から布団を被った。
サワサワとベットの上を這い回る手が、ピクリと止まった後パタパタと叩く動きに変わる。
「……ゼイン〜?」
冷たいベットの感触を不審に思ったカリーは、布団を頭に被ったまま上半身を起こした。