選択-14
「赤眼のカリオペとあろう奴が簡単に信用してんなよ?」
スランは油断無くゼイン=ザルスを睨みつけながら、クインに合図してもう一度上に上がらせた。
「あいつが一度でも、お前を『カリオペ』と呼んだ事があったか?」
スランの問いかけにカリーはハッとしてゼイン=ザルスを見る。
そうだ、ゼインはカリーの本名が分かってからも『カリー』と呼んでいた。
カリーが本名で呼ばれるのを嫌うのもあったが、ゼインにとってカリーはカリーなのだ。
出会ったあの日、お互い新しく自分で付けた名前を……ゼインは大事にしていた。
「黒い鷹くんじゃないですか……生きてましたか」
ゼイン=ザルスはダガーを離して、血を流す手の平をぺろりと舐める。
血を舐め取られた手の平には、薄い切り跡が残るだけで傷はすっかり塞がっていた。
「報酬は現金でって決めてんだよな。小切手なんて信用できねぇ」
スランは肩をすくめて答え、グシャグシャになった紙をゼイン=ザルスに投げる。
茶色く変色したそれは、スランの鷹が最期に運んだ小切手。
飛んできた紙はゼイン=ザルスの元に届く前に、空中でボッと炎をあげて消えた。
暫し絡まる黒と乳白色の視線……先に動いたのはゼイン=ザルスだった。
ザッと走ったゼイン=ザルスはスランに迫りながら腕を魔物に変える。
「おっとお」
スランとエンは反対方向に飛び退き、2人が居た場所にゼイン=ザルスの腕が叩きつけられた。
ズガアァン
もの凄い音と土煙があがり、石や土塊が飛んでくるのをスランは腕で防ぐ。
その土煙の中から、ゼイン=ザルスがぶわっと現れた。
「くっ」
スランはチッと舌打ちしてショートソードを抜こうと腰に手を当て、ギクリと固まる。
(カリオペに……!?)
そういえば、さっきカリーが使ってそのままだった。
しかし、ゼイン=ザルスはそんな事お構い無しに攻撃を繰り出してくる。
「わったっとっ」
攻撃を紙一重で避けつつ、スランはダガーを放った。
ゼイン=ザルスは驚異的なジャンプでそれを避け、スランを押し倒す。
「ぐはっ」
背中から地面に叩きつけられ肺から空気が無くなり、スランは激しく咳き込んだ。
「ああ……良い顔です……ゾクゾクしますね」
ゼイン=ザルスはスランに股がり、唇をぺろりと舐める。