選択-13
「ゼインを返して」
ゼイン=ザルスは蕾の中から飛び降りると、軽く手を振った。
シュッと音をたてて身体から水気が無くなり、フワリと灰色の髪が揺れる。
「……あれも出来たのか?」
熱くなさそうなゼイン=ザルスの様子に、スランはチロリとエンを睨んだ。
「ん?ん〜…まぁ、出来たと言えば出来たけど〜?」
「あんたな」
無茶苦茶熱くて火傷までしたのに……怪我などしない方が良いに決まってる。
「いや、直ぐに思い出したのがあの呪文だったからさぁ〜迷ってる暇無かったし〜」
エンはダラダラと冷や汗を流して言い訳をする。
暗殺者スランバートの冷たい殺気は半端ない。
そんな2人を余所に、ゼイン=ザルスはカリーを見上げて首を傾げていた。
「ゼロは、君よりも私を選んだのですよ?」
「ぅ」
「君と生きるより、私の器になる事を選んだのです……ゼロは私のものです……返せはおかしいでしょう?」
確かにそうかもしれないが、カリーだって譲れない。
「じゃ、ゼロはあんたにあげる。だから、ゼインは頂戴」
良く分からない理屈だが、それも正しい気がするゼイン=ザルス。
「とりあえず、降りて来てくれませんか?首が痛い」
首をコキッと鳴らしたゼイン=ザルスは右手をカリーに差し出した。
「……痛くしない?」
カリーの問いかけにゼイン=ザルスの指がピクリと動く。
「そうですね……それ以上に気持ち良くしてあげますよ?」
口調はザルスだが、内容はゼインとカリーしか知らないやり取り……カリーはクインに合図して、ゆっくりと降りる。
その時、シュッと空気を切る音がした。
「!!」
ゼイン=ザルスはカリーに差し出した手をグッと握る。
その手にはダガーが握られており、刃の部分を握ったゼイン=ザルスの手の平から血が流れた。
「スラン?!」
カリーは非難の目と声をスランに向けるが、彼の厳しい表情を見て口をつぐむ。