VS欲望-4
「修!」
郁美の声にびっくりして顔を上げると、彼女は怖い顔をこちらに向けていた。
「ど、どうした?」
郁美が怒っている理由がさっぱりわからず、少し焦る。
郁美は睨むように俺をジッと見つめてきた。
俺はその剣幕に少し怯んでしまい、彼女から逃げるように体をジリジリと後退させた。
彼女の表情から、次は何かしら罵声のようなものを浴びせられる気がしたので、ビビった俺は彼女からフイッと目を逸らした。
だが、次の瞬間に浴びせられたのは、罵声ではなく、触れただけのキスだった。
コイツ、なんで怒ってんのにこんなことしてくるんだ?
わけがわからず、ポカンと郁美を見ていたら、次に彼女は自分の制服のブラウスのボタンを次々に外しはじめた。
少し派手な赤いブラが顔を出す。
「おい、何してんだよ……?」
唖然として郁美の手元を見つめていたが、すぐに我に返った俺は、慌てて彼女の腕を掴んでその手を止めさせた。
「……付き合ってんだから別にいいでしょ」
郁美は乱暴に俺の手を振り払うと、再びボタンに手をかけてさらに外していこうとしていた。
だが、何かを思う所があったのか、ボタンにかけた手が止まったかと思うと、ワナワナと悔しそうに下唇を噛み締めていた。
「とにかく、落ち着け、な?」
わけがわからないなりにも、郁美のことを落ち着かせなければいけないと思い、なるべく優しい声でそう言うと、彼女の肩をポンポンと宥めるように叩いた。
すると、郁美はなぜかポロポロと涙を零し始めた。
「修はあたしのこと好き?」
涙で潤んだ郁美のまっすぐな視線にたじろぎながら、
「いきなりなんだよ」
と、俺は目を逸らした。
だがじっと俺を見据える彼女の視線は、俺が答えるまで離れないようで、
「……好きだよ」
と、彼女の目を見れないまま呟くしかなかった。
答えを聞いた郁美はギュッと俺に抱きついてきた。
甘い香水の匂いがフワッと鼻をくすぐる。
「だったら、このまましようよ」
「……まだ早えだろ」
ヤリ捨てしといてこんなこと言えた義理じゃないけど、ヨリを戻してまだ3週間ほど、やはり体を重ねるには少し早い気がした。
あの時は下心だけですぐに手を出してしまったけど、今度は誠意を持って付き合うと決めたのだし、ここはなんとしてもこらえないといけないんだ。
「早いとか遅いとか関係ないよ。修とこういうことできるのはあたしだけなんだって実感したいの」
郁美はそのまま俺を床に寝かせ、何度もキスをしながらおぼつかない手つきで俺のネクタイを緩めていく。
俺は郁美の部屋の白い天井をぼんやり見つめながら、さっきの間抜けな石澤の個人写真を思い出していた。