VS欲望-10
箸をトレイに置いて、両手でそれぞれの膝を握り黙り込む俺の姿は、まるでくどくど先生に説教されている小学生のようだった。
「修ってズルいよね。他の女が好きなくせにヤるときだけあたしんとこ来てさ」
「んなこと……」
言いかけて止めたのは、自分でも思い当たる節があったからだ。
他の女が好きと言うのはさておき、郁美を都合のいい女にしていたのは事実だった。
「いつかはあたしだけを見てくれるってずっと待つつもりだったけど……もう我慢の限界」
郁美は再びアイスティーを飲み込んで冷たく言い放った。
「……郁美、ごめん」
精一杯声を振り絞って頭を下げると、
「やっぱ心当たりあるんじゃん。結局あたしのこと彼女じゃなくて、単なる逃げ場にしてただけなんでしょ」
と、彼女は嘲笑うように乾いた笑い声をあげた。
そうして初めて、自分がカマをかけられていたことに気付く。
苦々しい感情が湧き上がったが、それは郁美に対してではなく、はっきり指摘された自分の卑怯な行動についてであった。
恐る恐る郁美の顔を見てみると、大きな瞳は潤んで揺れて、キュッと下唇を悔しそうに噛んでいた。
隣のテーブルに座っている、小さい子連れの主婦が怪訝そうに俺達をチラチラ見ていた。
郁美をここまで追い詰めていたことに気付かないで、うまくいってると思っていた脳天気な自分がたまらなく情けなかった。
でも、また謝れば郁美の言葉を認めることになる。
認めればさらに郁美を傷つけることになる。
なんて言えばいいんだろう。
俯いて黙りこくる俺に向かって、彼女は
「……昌斗のことがなかったら、あたし達はうまくいってたのかな」
と、ポツリと呟いた。
そっと彼女の顔を見上げると、郁美はたった一筋だけ、涙をスッと流していた。