忍(しのぶ)から一枝(ひとえ)へ-2
園芸店は日曜日が一番忙しい。私の休日はその翌日の月曜日である。 そんな私の仕事にあわせて忍は日曜日には夜の仕事を休んだ。一週間のたまりに溜まったほてりをこの夜一気に解消する。
「ちょっとヤバイ、あんたじゃないと逝かなくなっちゃった」
自分が仕込んだ男である。当たり前といえば当たり前の話である。
「忍、お前はまだ他の男としたいと思っているのか?」
「あんたがつまらない男になってしまったらいつでも捨てるよ。だからあんたでしか逝かなくなったらこまるのさ」
満更冗談でもない口ぶり・・・忍はそれをやりかねない女なのである。
「あんた、仕事、今の立場で満足している訳じゃないだろうね。男だったら天辺目指さないとダメだよ」
会社は実質私の指示で動いている。私が入る前と比べ、規模も売り上げも遥かに大きくなっていた。特に私が独自に立ち上げた石材部門は従来の園芸3店全て足しても追いつかない程の売り上げを見せていた。ゆくゆくは石材部門を園芸部門から独立させ、私はそちらに専念する夢も持っていた。
女の自分が果たせない夢。忍はそれを私に託していた。勿論そのための努力を忍は一切惜しまない。昼夜の激しい仕事にもかかわらず、私の身の回りに気を配り、そして家族を大切にした。そして、私にも家族を愛し、大切にする事を同時に求める。勿論私にも異存は無かった。
何もかもが順調に行っていると思っていた。しかし、破綻は静かに忍び寄っていたのである。シロが死んだあの日を境に。