恋-6
「……あの人……ゼインの事が好きなんじゃないかな?」
「はぁ?」
何を言いだすのか、とゼインは焼き菓子を弄りながらポロを見る。
「でも、それが分からない……そんな感じがする」
分からないなりにゼインが喜ぶんじゃないかと思われる事をやっている風に見える。
ゼインは手の中の焼き菓子を見つめながら、あの男との日々を思い出した。
色んな話をした……他愛の無い話を、真面目な顔で聞いている男が滑稽で面白かった。
この焼き菓子の作り方を教えたのもゼインだ。
実験が始まるまでは、それなりに楽しい日々だったのだ。
「……奴は何がしてぇのかなぁ……」
『畑』を維持する事?……違う……『畑』はただの資金源だ。
なら、魔物化出来る人間を造る事だろうか?
ゼインはふと男の最後の言葉を思い出した。
「『私の器にふさわしい』」
「え?」
「奴が言ってた。暴走して魔物に変化していく俺に言ったんだ」
『器』という事は、あの男は……。
「奴は人間になりたい……のか?」
その考えに至った時、ゼインの身体にゾワリと悪寒が走る。
奴の……魔物の力に耐えられる人間を造り、それを乗っ取る……そういうつもりなのか?
ゼインは手の中の焼き菓子をグシャッと握り潰した。
しかし、ポロは少し違う答えを導き出した。
(人間に……じゃない……ゼインになりたいんだ)
だから、実験に成功していてもポロはいらなかったのだ。
「あ〜…くそ。無駄に緊張した。ここ壊して次行くか」
ゼインは手をパタパタ払い、焼き菓子の粉を落として服を脱ぎだす。
「……羞恥心は無いの?」
躊躇う事無く全裸になるゼインから服を受け取りつつ、ポロは呆れた口調で言った。
「あ?3人共寝てんのに、今更何を恥ずかしがれと?」
「え?!スランともなの?!」
驚いたポロは思わずゼインの服をぎゅっと握りしめる。
「あ、そっか。お前知らねぇか……山に登った時にザルスとやりあってな。スランが樹液飲んじまって……」
「ああ……あれ……」
ポロも薄めたのを飲んだ事はあるし、ゼインから話を聞いて原液がどれだけキツイのかも知っている。