世界中の誰よりもいちばん-29
「な、何を笑っているのだっ 何か私はおかしな事でも言ったか?」
「いえ、そんなんじゃないですよ? 何て言うか…………
やっぱり秋子さんは可愛いなって思ったら、
今までつまらない事で怒っていた自分が無性に馬鹿らしく思えちゃって…………」
「か、可愛いとかっ………… そんなの初耳だぞっ」
「あれ? そうでしたっけ? 僕はずっとそう思ってましたけど?」
「し、知らん、知らんぞそんな事っ 私に何でも教えろなんて言っておきながら、
君こそ私に何も教えてくれないではないかっ!!!」
笑われた事よりも、可愛いと言われた事に怒り出す秋子さん。
僕の愛する人は、つまりはそういう人なのだ。
「はいはい…… なら今日、僕が美咲さんとどうなったのか教えましょうか?」
「い、いやっ 待て! そういうのはいいからっ」
「そんな、聞いてくださいよ? 美咲さんたらいきなり僕の上に跨って…………」
「わーーーーー!!!! うるさいうるさいっ 聞きたくないと言ってるだろっ!」
秋子さんは布団を被り込むと、
僕の胸に顔を埋めながら、がぶりとひとつ甘噛みした。
「い、痛いじゃないですかっ もう…… 歯形がついちゃいますよ…………」
「うるさいっ 体中あちこちにキスマークをつけている癖に…………」
「え? あ、ホントだ………… いったい誰がこんなに…… 痛ててっ!」
「ふんっ! 誰かもわからないとは、いやはやお盛んな事だ…………」
そう言ってふて腐れながらも秋子さんは、
ぎゅっと僕の身体に腕を絡ませ、目を閉じ眠りに着こうとしていた。
「秋子さん?」
「…………なんだ」
「愛してますよ…………」
「なっ…… 君はまたいきなり何を…… そういう事はもっとしかるべき時にだなっ」
顔をあげ、少し照れくさそうに僕を睨みながらそう言うも、
「しかるべき時? それは例えばひとりでしてる時とかですか?」
「なっ…… なんでそれをっ…………」
「やだなぁ さっき言ってくれていたじゃないですか? 和也愛してるって……」
「……………………い、言ったか?」
「言いましたよ?」
「…………ほ、ホントに? 私が言ったのか?」
「ええ、しっかりとまだこの耳に残ってます♪」
そう僕が言うや何か思い出したのか、みるみる顔を紅く紅潮させては、
隠れるように小さく身体を丸めて、また僕の胸元へとうずもれる秋子さん。
やっぱりこの人は可愛い。
比べるものじゃないとわかっているけど、
僕の知る誰よりも可愛くて、誰よりも愛しいかけがえのない人なのだ。
「あはは、それじゃホントにおやすみなさい秋子さん」
僕が布団を被ると、
待ち構えていたように秋子さんは黙ってその身を寄せてきた。
胸元に首筋に、体中のいたるところに唇を重ねては、
まるで誰とも解らぬキスマークを上書きするように、
無言の嫉妬を見せつける秋子さん。
僕はそんな秋子さんの身体をきつく抱きしめると、
耳元に熱い息を吹きかけながら、しかるべきタイミングでこう言った。
「愛してるよ秋子さん………… 世界中の誰よりもいちばん…………」