レイプ犯 湯島武史-1
「判を押せ。」
「…」
研修から帰って来た優里に武史は離婚届を突きつけた。
「いいの…?」
「ああ。ただし守る秘密は守ってもらう。それと俺にはもう関わらないでくれ。俺ももうおまえらには関わらない。」
「…。私が出してくるよ。」
「ああ。」
優里は判を押した離婚届を持って荷物をまとめた。自分の荷物はさほどない。荷物を車に詰め込み武史の元へ来た。
「さよなら…」
無機質な表情で別れを告げた。
「高梨隼人は七丈島の高校で教師をしてる…」
「えっ…?」
行方が分からなかった元フィアンセの名前に思わず振り向く。
「これが奴が住んでる住所だ。」
住所が書かれた紙を渡す。
「行け。」
「…」
優里は武史との別れなどもうどうでもいいような様子でその紙を握り締めて足早に出て行った。武史は高梨隼人が複数の教え子の女子生徒に手を出し妊娠させた事もあるのをネタに離島に飛ばした。手荒い仕打ちをされた隼人は大人しく武史の指示に従い離島生活を余儀なくされた。隼人が生徒に手を出していた事は優里には言わないでおいた。それがもうどうでもいいからなのか、それとも優しさなのかは分からないが…。
優里はバツイチになろうが世間体がどうであろうが構わなかった。悪夢のような生活から抜け出せればどうでも良かった。研修から帰ってきて家に着く前に絵里が現れ、
「湯島君を私にちょうだい。」
と言われた。驚いた優里が絵里を説得したが全く聞く耳を持たない絵里に、最後はこう思った。
(勝手にすれば??)
と。だから家に帰り武史に離婚届を突きつけられた時にはそういう予感はしていた優里だった。次の日には隼人のいる離島に飛んで行った。
誰もいない家に1人。武史はソファーに座り煙草を吸う。
「こんなの一生続けようとしてたのか、俺は…。」
復讐の為のみの結婚生活を振り返る。いざ1人になると淋しいものだ。天井に向かう煙草の煙を見つめてボーッとしていた。
「あれ?後悔してるの?」
この家にはなかった笑顔…絵里が悪戯っぽい笑顔で言った。
「する訳ないだろ?」
隣に座って来た絵里を抱き寄せる。
「煙草、止めて?」
「ん?あ、ああ。分かったよ。」
武史は煙草を消した。以降、武史が煙草を吸う事はなかった。