悪魂の結末-12
さらに武史は絵里から大きなダメージを受ける言葉を聞く事になる。
「あんなバンソウコウなんてなんの償いにもならない事は知ってたのに…」
「えっ…?」
武史にとって衝撃的な言葉だった。
「も、もしかしてあの朝、靴箱にバンソウコウを置いてくれたのは絵里ちゃん…なのか…?」
絵里に虐められて足にすり傷を負った武史。次の日そこを優里に攻められ死ぬかと思う程苦しんだ武史。その翌朝、靴箱に一枚のバンソウコウが置かれていたのを武史は決して忘れなかった。誰だかは分からなかったが、こんな自分にも心配してくれる人がいる…、苦痛の日々の中でもそれが武史の心の支えになっていた。それが絵里だった…。憎しみの対象でしかなかった絵里が実は心の支えになっていた人だと知り衝撃的という言葉では足りない程の衝撃を受けた。
「うん…。本当は謝って直接渡したかったし、渡さなきゃいけなかった。でも怖かったの…。あんな酷い事しておいてどんな顔して湯島君に会う事が…。今なら殴られても謝りに行ける。あの時に帰って謝りたい…」
もはや武史は意識朦朧としていた。レイパーからレイプの意欲を失ったら何も残らない。
(だめだ…俺はこいつをレイプできない…。あのバンソウコウがどれだけ俺を支えてくれた事か…。それがコイツだとは…)
絵里の謝罪は何故か心に凄く伝わってしまう。優里の上辺だけの気持ちとは全然違かった。武史の絵里へのレイプの炎は完全に消えてしまった。
顔面蒼白で放心する武史を心配する絵里。
「湯島…君?」
「あ…あ…」
言葉が出ない。絵里へのレイプの炎が消えた今、長年の苦しみと復讐レイプの全てが正しかったのか間違っていたのか分からなくなっていた。
(俺は何で関係ない女までレイプしたんだ…?たくさんの女の人生を狂わせてしまったのか…?何で愛してもいない女と結婚してるんだ…?何で子供にレイプを伝授したんだ?俺は…俺は…)
武史に今まで味わった事のない種類の恐怖が襲いかかる。額からは冷や汗が出、体が震えてきた。
(俺は…俺は…)
何かに押し潰されそうになる武史を救ったのはバンソウコウの女だった。
「湯島君…大丈夫…?震えてる…」
包み込むように優しく抱きしめてくれる人…、それはあの苦しい日々を支えてくれた温もりと同じだった。
「あ…」
「湯島君…ごめんなさい。全ては私が悪いの…。ごめんなさい…」
その言葉にレイパー湯島武史の全てが終わった。
「どうして…どうして全てを背負い込めるんだ…?どうして全ての罪を被って謝れるんだ…?」
絵里は武史の顔を見つめながら言った。
「私が湯島君を救えるたった1人の人間だったのに救えなかったから…。それと…あの時謝れなかった自分が許せないから…。」
「絵里ちゃん…」
泣いている。武史が泣いている。それは長年の苦しみから解放されたからなのか、それとも自分がしてきた悪事の数々への苦しみからなのかは分からない。女の涙を食い物にしてきた怪物の目から溢れる涙は止まらなかった。そんな武史をスーツがビショビショになるまで優しく抱きしめていた絵里もまた涙を浮かべていた。