VS歩仁内-9
そんな俺達をたしなめるかのように、沙織はゴホッと咳払いをしてから、
「……あの、桃子の具合はどうですか?」
と、石澤母に訊ねた。
すると石澤母は頬に手をあてて、
「まだ熱が結構あるのよね……。午前中は病院に連れて行って点滴もしてきたんだけど、なかなか下がらなくて……」
と、やや難しい顔をした。
それを聞いて、やはり二人きりになるのは無理だろうなと少し落胆した。
そもそも初対面の石澤母はインパクトが強過ぎて、どうしても萎縮してしまうし、この場で俺一人が残るのはどう考えても不自然だし。
今日の所は引き下がった方が良さそうだ。
そんなことを思っていると、隣に立っていた歩仁内が心配そうな顔をして、
「そんなに体調悪いなら、お邪魔しない方がいいよね」
と、みんなの顔を見回した。
「……そうだね、今日の所は帰ろっか」
沙織の言葉にみんなが頷くので、もちろん俺も同じように頷いた。
「あら、わざわざ来てくれたのに。せめてお茶でも飲んで行ったら?」
石澤母は受け取ったゼリーの箱を見つめてから沙織に言った。
「お言葉はありがたいんですが、僕達はまだ生徒会の仕事の途中だったんで、今日の所は遠慮します」
すかさず歩仁内がそう言って頭を下げた。
まあ、体のいい言い訳だ。さすが歩仁内。
しかし、うんうんと納得している俺を尻目に、奴はとんでもない言葉を続けたのである。